きみを守るためなら





「どういうこと、」


そう云って微かに震えた名前の唇は、キスを交わすときと違って、色を失っていた。
どういうこと?理由はシンプルだ。それを告げるつもりはないけれど。

どんなに考えたって俺の結論は変わらない。
変われ、ない。


俺が口元に笑みを浮かべて首を横に振ると、彼女は小さく声をあげて涙を零した。



「ほかのひとを、好きになったの?」
「ああ、そうじゃ」
「…っ!」


悲痛そうな叫びを喉奥から漏らし、名前は俺の足元にくず折れる。
身体を屈めて彼女の頭を抱き寄せ、堪えるように息を吐いた。
こうすることしかできない。


指先が冷たくなるのを感じながら、これで終わり、と自分に言い聞かせる。

唇を噛み締めすぎたせいか咥内に血の味が滲んだ。
ゆっくりと手を離して呼吸を整える。彼女が、縋りつくような瞳で俺を見上げた。
ああ、こんな表情をされるのは最初で最後だろう。



好き、愛してる。
今までも、これからも。




「さよなら」



きみを守るためなら
( 悪魔になって「さようなら」と言える )



(1006 // 最後まで嘘つきな男でごめんなっていう仁王の話です)