夏の計画

「よっしゃ!夏休みの計画たてるで!」



部活が終わり、だらだらと帰っていった他のテニス部メンバー。の中で、残っていた謙也がいきなり騒ぎ出した。張り切った様子でスケジュール帳を取り出している。
つか、なにそのヒヨコの柄のやつ…何気にかわいいの使ってるし。


適度にクーラーの効いた部室のなか、ドリンクを飲んでいた財前くんが眉を顰める。





「謙也さんうっさ…」
「なんや財前!」
「何でもないっす」




ふたりの漫才を白石と聞き流しながら、そう言えばもう夏休みか、とカレンダーを見つめた。たしかに今日は終業式だったけど…いつもみたいにコントして、最終的に「楽しめばええんや!」だからなぁ。


第一、昨日と変わらずにテニス部の部活はあるわけで。






「部活も相当しなきゃいけないのに、休めなくて平気なの?」
「遊びも部活も楽しまなアカンっちゅう話や!」
「………、」





あ、白石の溜息が聞こえた気がする。
わくわくとした表情でペンケースを漁る謙也に苦笑いを浮かべて、財前くんの方を見る。財前くんは面倒そうな顔のまま、音楽プレーヤーを操作していた。





「じゃ、謙也はどこ行きたい?」
「え?あー…んー……う、海…とか!」




具体的にどこに遊びに行くんだろう、と聞いてみれば、歯切れの悪い答えが返ってくる。白石と財前くんは同時に溜息をついた。ツッコミをする気力もないみたいだ。
無理もないなぁ、炎天下のなか普通に部活した後なわけだし、謙也に構ってられないよね…。(あ、ちょっと失礼なこと言ったかも)



あれ、そう言えば遠山くんや小春ちゃん達はどこに行っちゃったんだろう。
メールしておこうと思い携帯を開く。





「なんや!海、ええやろ!」
「暑いしだるいやないすか。俺はパスで」
「わたしも海はちょっと…」






日焼けしちゃうし、髪の毛痛むし。そう付け加えると、謙也にぶつぶつと文句を言われた。
唇が尖っていて、スケジュール帳のヒヨコみたいだ。(思わず笑ったら睨まれた)


小春ちゃんに『夏休み、どこか遊びに行こうよ』とメールを送信する。
たぶん小春ちゃんを誘っておけば、一氏くんも芋づる式に釣れるはず。
千歳くんは来るのかなぁ。一回だけでも部員全員で遊べたら嬉しいけど、…無理かも。






「せやなぁ…プールは?」
「それなら行ってもええっすわ」






白石が携帯をいじりながら(何をしてるのかと思ったら千歳くんを誘ってた)、プールと提案すると、財前くんが賛成した。
うん、わたしも賛成!プールなら日焼けしないし!それに、プールに行くのは久しぶりだ。


水着とかどうしようかな。考えていると、携帯が振動して着信音が鳴る。


『ええよぉ 行く場所はソッチで決めといてや〜』


あ、小春ちゃんだ。
そっちで、ってことは、スケジュール会議をしていることがわかってるんだなぁ。さすが小春ちゃん。






「プールは決定で…他は?」




首を傾げてそう問えば、白石と謙也がうーん、と唸る。財前くんは全く興味がなさそうにプレーヤーを弄っていたので、目線をそっちに向けてみた。
ちら、と黒の瞳がわたしを見つめて、それから唇を開く。







「じゃ、肝試しとか」
「おお!ええなぁ!」
「……肝試しはちょっと…」




財前くんがにこりともせず真顔で言い放った言葉に、思わず顔を歪める。テニス部メンバーで肝試しなんてやったら、怖がらせるのも本気だろうから怖いに決まってる…!!

その途端、携帯を閉じる音がして、白石がにやりと笑った。




「なんや、怖いん?」
「そ、そういうわけじゃないけど」



白石は頬杖をついてニヤニヤしながらこちらを見つめ、謙也はへえ、と呟いて意外そうに目を丸くしている。





「…名前先輩、苦手なんすか?」
「……うん」





財前くんがすこしだけ困ったような表情でわたしを見遣る。


正直に頷いた瞬間、クーラーの電源がピピ、と音をたてて止まった。
その音に驚いて声も出ずに立ち上がると、謙也が爆笑している。(こいつ…!!)




「な、なに!今の!」
「俺が止めただけやけど…っふ、アハハハ!」



心臓がばくばくと鳴るのが聞こえて、一気に恥ずかしくなる。


「ほんまに苦手なんすね」と財前くんが緩く微笑んだ。
ざ、財前くんしか味方がいないような気が!


でもあんな優しく笑ってくれたんだから、きっとこの企画はナシになるはず。






「なら、肝試ししましょう」
「えええ!!」





まさかの四面楚歌だった。