完璧主義者の欠落した感情 「名前、こっち向いて」 「…っ」 「ほんま、ごめんな」 痣のついた頬を撫でられて、びくりと肩を揺らすと、蔵ノ介は傷ついたような顔をした。 するすると首筋を這う指先は、こわいぐらいに冷たい。 その指はわたしをやさしく撫でてくれて、その唇はわたしをやさしく啄ばんでくれる。 その声はわたしをやさしく慰めることができて、その身体はわたしをやさしく、とてもやさしく、抱く。 けれど、彼がひとたび衝動に駆られると、その指も唇も、声も身体も、何もかもが鋭い凶器になる。 上手く人を愛せない反動。誰にも弱さを見せることができない完璧なひと。 わたしにだけ、その弱さを見せてくれる。 それが愛じゃないってことはもう、ずっと前から気付いてた。 だんだんと、頬の熱が蔵ノ介の指に移っていく。 痣がじんと痛み、咥内に鉄臭い味が広がった。この味には、どうしても慣れない。 「くらの、すけ」 蔵ノ介はたくさんのことができるのに、何で一番欲しいものはくれないの。 わたしが欲しいのは、偽りの優しさじゃなくて、曝け出す弱さでもなくて、あなたの…、 「名前……愛してる」 睫毛を伏せて肩を震わせるわたしに、蔵ノ介が上擦った声をあげる。 機械的な甘言なんて、ぜんぜん嬉しくない。 結局、自分が安心するための、拠り所が必要なんでしょ。きっとわたしじゃなくてもいいんでしょ。蔵ノ介の弱さを認めて、「だいじょうぶ」「愛してるよ」って言える子なら、誰でも。 そんなことのためにわたしを使わないで。 でもね、ばかみたい。まだ期待してるんだ、わたし。 蔵ノ介が過ちに気付いて、わたしを本当に、心の底から愛してくれるって。 ずっとずっと、待ってるんだ。 自嘲気味に笑ったら、なみだが零れて、唇の傷に染みた。 その涙を掬う蔵ノ介の指は、わたしを救ってはくれないね。 完璧主義者の欠落した感情 ( あなたに愛してほしいだけ ) (0920 // 白石は案外不器用なんじゃないかな) ×
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