早く終わって欲しいなあ





「はよ終わらんかな」
「……何が?」
「夏」




気だるそうな溜息と一緒に呟かれた言葉に眉を寄せる。
カラフルなピアスを弄る光くんはちらりとわたしを見遣り、ええこと無いわ、と付け足した。

いや、夏でもいいことの一つ二つはあるって。
思わずそう言い返すと、光くんは「なら言うてみ」とでも言いたげな表情を向けた。




「…ほら、海とか」
「嫌い」
「セミとか」
「喧しい」
「洗濯物がよく乾く!」
「主婦か」
「あ、暑さ…?」
「…お前暑いのが好きなん?マゾやな」




わ、わたしだって夏は苦手な方だけど…夏休みとかあるのに。
じとりと睨めば、うんざりしたように視線をそらされた。むかつく!



「……風流ないなぁ、光くんは」


日本人のくせに、季節を楽しむって気持ちがないんだろうか。
というか、夏が嫌いと言うわりにはよくアイス食べてるとこ見かけるんだけど。







「せや、風流な話してやるわ」
「…風流な話?」



なんだろう、それ。首を傾げて問いかけると、光くんは携帯を取り出して操作し始めた。
かちかち、と何度か音がして、光くんがすぐに口を開く。






「AさんとBさんとCさんが居ました」
「…? うん」
「Aさんがある日、近くにある心霊スポットで肝試しをしたいと言いました」
「……ひ、光くん…この話ってもしかして」
「BさんとCさんもそれに賛成し、車でその場所まで向かうことに――」
「わああちょっと待ってストップ!!光くんごめん!」





思いっきり怪談じゃん!あ、あぶな!最後まで聞かなくてよかった…眠れなくなるところだった。
ばくばくと嫌なくらい音をたてる心臓を押さえながら、何度か深呼吸をする。
光くんは残念そうに携帯を閉じて、わたしに視線を向け、意地悪く笑った。




「これ、全部聞くと呪われるらしいで」
「なっ……そ、そんなの教えないでよ…!!」
「…夏の間中、ずーっと話したるからな?」


「(はやく終わらないかな、夏!)」