むっつり財前 「や、やめようよ…光くん…」 「クリアしたらやめるんで」 ひっ、と喉で小さく悲鳴を上げる様子を見て、そんなに嫌なんかと思う。 テレビの画面ではゾンビやらモンスターやらが血を噴きながら倒れていく。 新作のホラーゲーム。(ホラーっちゅうよりはアクションやけど) それを家に寄るついでに買ってきて、パッケージを見せたら名前先輩が青ざめた。 怖いのと血が駄目らしい。ええこと聞いた、と始めてみせればこの状況。 正直、好きな先輩が涙目になっとるとことか…アカンやろ。理性的に。(喘ぐみたいに悲鳴あげとるし) 「ちゅうか、画面見てへんから大丈夫やないすか」 「音がやだ…っ!」 「あー、撃ち抜いたときとかの?」 ぐしゃ、とか言うやつか。 そう問い掛けながらわざとリモコンで音量を上げれば、涙をいっぱい目に溜めた先輩がぱっと顔を上げた。 画面からめいっぱい目をそらして俺の方を向き、遠慮がちに「光くん、」と呟かれる。 思わずどきりとして、ゲームをポーズ画面にしてしまった。 「…何すか」 「邪魔かもしれないけど…、ぎゅって、して」 「……、…は?」 「光くんがぎゅってしてくれると落ち着くから…」 名前先輩は涙が零れないように唇を少し噛んで、「…やっぱり、だめかな?」と小首を傾げた。 もうこいつ、あほか。(どこでこんなん覚えてきたんやろ) 速くなってしまう鼓動を抑えて長く息を吐き、とりあえずコントローラーを近くに置く。 そして先輩の細い手を引き寄せてぎゅっと抱っこするように膝の上にのせ、 次いでコントローラーを手に取り、ゲームを再開した。 「ご、ごめんね…!」 「別に、謝らんでええっすわ」 「うん…ありがとう」 相変わらずええ匂いするなこの人は、と思いつつ目の前の敵に集中することにする。 俺に黙って抱かれながら小さく縮こまり耳を押さえる名前先輩を見て、役得や、と思った。(口には出さんけど) ×
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