ラジオ体操




耳元でけたたましく機械音が鳴っているのが聞こえる。
…携帯のアラーム?そんなの設定してないはず。第一今は、テニス部の合宿の最終日で。
朝練に出るのは選手だけらしいから、お言葉に甘えて寝かせてもらうつもりだったのに。
あ、間違えてアラームかけっぱにしちゃったのかも。

寝惚けたまま、音を出しているそれを掴もうと手を動かす。けれど、目を瞑ったままじゃ見つからない。
なんなの、と悪態づくように小さく呟くと、顔に陰が差してすこし暗くなったような気がした。






「んー…」
「おはよう」
「……おはよう?」





瞳を何度か瞬かせると、色素の薄い髪の毛がわたしに被さっているのが見えた。
長い睫毛で縁取られた瞳はきらきらと煌めいていて、目を細めてよく見ると随分整った顔の人物だ。
………というか、このひと、白石くん?


今わたしが寝ている場所は、顧問のオサムちゃんがわざわざ用意してくれたマネージャー用の部屋なのに、







「なんで白石くんがここに…」
「起こしに来たんやけど、なんや起きんから悪戯したろかなぁと」
「へ……あ、うん…」






間抜けに開いた唇からは情けない声が出る。
うん、じゃないよわたし。悪戯、じゃないよ白石くん。こんな近距離に男の子がいるなんて、考えたこともないシチュエーションだ。

逃げようと身体を起こせば、案外簡単に退いてくれた。
ほっと息をついたのも束の間、寝顔にくわえて寝起きの顔を見られたことに気付く。
「げっ」と呟くと笑われた。慌ててタオルケットで顔を隠す。









「あのですね…仮にも女の子の部屋に、」
「30分後にラジオ体操するからロビーに集まってな」
「…は?」
「せやから、ラジオ体操」







ラジオ体操?ああ、小学生のときによくやったあれか。
とは言っても高学年になるにつれて、だんだんと集合場所に行かなくなってしまったけど。

………えっと…なんでそれを、合宿の、しかも最終日の朝にやるの?
驚きやら何やらで言葉を発せずに黙ると、白石くんは布団に胡坐をかいてにっこりと微笑む。

わあ、イケメン。…じゃなくて。





「なんで?」
「健康的でええやろ」




にこにこと笑う白石くんの背後にある壁時計を見たら、針が指していたのは5時。まさしく早朝。
健康的なのはいいけれど、巻き込まれたこっちの身も考えてほしい。
というか意味がわからない。なんで中学生にもなってラジオ体操をしなきゃいけないんだろうか。




「じゃ、次は金ちゃん起こしてくるわ」
「はあ…」
「ちゃんと用意しといてな」
「はい…」





うきうきとした様子で部屋を出て行く白石くんには、何も言えなかった。
どうやって部屋に入ってきたのかとか、悪戯って何かとか、もしあのまま起きなかったら何してたのか、とか。


聞きたいことは沢山あったけれど、とにかくあれだ。ねむい。





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