大きな先輩









フォアやバックのミス数をスコアノートに付けながら、部員のみんなを眺める。
今やっているのは、一氏先輩と小春先輩・財前くんと忍足先輩のダブルス試合と、遠山くんと白石先輩のシングルス試合。



こうして見ると、ほんとにイケメン勢揃いというか…遠山くんはずいぶん可愛い顔をしてるし、財前くんもすごく整った顔立ちだ。(こわいけど)
先輩達だって、それに負けないかっこよさ。クラスの女の子たちや、友達が騒ぐのもわからなくもない。


特に白石先輩なんか、キャーキャーを通り越してぎゃぎゃあと騒がれている。







けれど、わたしはあまり悪目立ちたくない。格好良さで目立つことならいいのかもしれないけど、わたしは「あのイケメンテニス部にマネージャーが」、といった形で目立ってしまっている。
テニス部員のイケメンさは恐怖だ。冗談抜きであの整い方はこわい。ほんとに中学生なのか、とまで思う。



ほんとに、あの時コンタクトさえ落とさなければ!いや、白石先輩にコンタクト返してもらわなくてもいいから帰るべきだったんじゃないかな。あ、でも無駄な出費になるわけだし…。く、くそぉ…!!



まあわたしの、頼まれると断れない性格が一番ダメなんだろうけど。






それにしたって、お兄ちゃんがテニス部レギュラー、しかも異常にモテていたせいで色々あったわたしにとっては、『テニス部』と『イケメン』がトラウマでもあるわけで。








「(…まあ、お兄ちゃんは東京にいるし…なかなか会わないからいいけど)」











この時期の日差しはそれなりに強く、暑い。それを考慮してレモンと蜜柑の絞り汁をプラスしたドリンクを作った。これが結構しんどい作業で、人数分作るのは大変だった。
そろそろ持ってこようかと考え、スコア表にボールペンを挟む。









「先輩ら、ほんまキモい…っ!」






軽い音と、財前くんの声がして、ボールが足元に飛んできた。ボレーミスを記載する。ええと、遠山くんはまだ騒いでるから…(白石先輩が珍しく困ってる)……ああ、ダブルス試合のボールか。




小春先輩はけたけたと笑って、財前くんに近付いていく。一氏先輩が「浮気か!」と叫んでいるのが見えた。あの二人はラブルス、と呼ばれているらしい。理由を知らないときには、そのネーミングセンスに正直引いたものの、あの激熱ぶりを見せられてからは納得した。






「光ってば、油断しすぎやな〜い?」
「はぁ…ウザいっすわ」
「もうっ生意気なんやから!あ、名前ちゃん取ってや!」
「はい!ちょっと待ってくださいね…えーと」







慌てて近くのベンチにスコア表を放り投げ、足元のボールを拾う。ボールペンが外れたのか、がしょん、と大きな音がした。




拾ったそれを小春先輩に投げ渡せば、お返しとばかりに投げキッスを頂いてしまった。さすがに恥ずかしくて照れ笑いをし、すぐに目線を反らす。あ、一氏先輩に睨まれてる……わたしは敵じゃないですよ、と目で訴えると「なんや!喧嘩売っとんのか!!」とキレられた。売ってません、先輩マジでこわいです。















「これ、痛かね……」
「…えっ?」






ベンチから声が聞こえて振り向くと、投げたスコア表が、だれかの頭に激突していた。







「(えええ何でこんなとこで寝てるの…足すっごいはみ出てるし)」
「いつん間にマネージャーば入れたんね?白石」
「昨日やな。…どうせ千歳は猫でも追いかけてたんやろ」
「ぎゃあ!!!」
「名前、叫び方変えた方がええで」






白石先輩はそう言って、「まぁそこが可愛いんやけどなぁ」なんて笑顔を見せている。かっ、かわ……いやそれより、どうして背後に…!!!驚きを隠せずに飛び退けば、ちとせ、と呼ばれた人はけらけらと笑った。
そしてスコア表を持ちながら立ち上がる。…この人、190pは超えてるんじゃないだろうか。一気に陰ができてしまった。





「んー…惚れとっと?」
「ああ、ちゃうちゃう。付き合って…」
「ません!!」






まぁこんな感じや、と白石先輩は付け加える。(どんな感じなんですか…)



スコア表を受け取って頭を下げると、そのまま髪の毛を撫でられた。びっくりして顔を見れば、にこにこ笑っている。わ、物凄くいい人そうだ。と言うか、手まで大きいんだなぁ。