隣はアンラッキー 「にっ…2年7組の、名字名前です、よろしくお願いします!」 「白石が言うとった転校生の?」 「ちゅうか財前と同じクラスやん」 「えっ?あ、はい」 ええと。 「謙也さんにクラス覚えられとるとか…鳥肌モンっすね」 「財前!!」 「名前ちゃん可愛いわぁ〜!こっち向いて!」 「浮気か!!」 あの、 「名前にはマネージャーやってもらうから。な?」 「はい、えっと…何かあったら頼んでください」 「ねーちゃんがワイらの手伝いするん?」 「そうや。迷惑かけんようにな、金ちゃん」 …自由すぎません、か? *** 昨日は散々だった。 部員の人達に挨拶をすればぎゃあぎゃあと騒がれ、部活中に、切れたガットの処理をしていれば驚かれ、スコア付けをしようとすれば遠山くんに飛びつかれ…。 一日で、一週間分の筋肉を使った気がする。体のだるさは寝てもとれなかった。 「名前、おはよ!」 「おはよ…」 「なんや疲れた顔やなぁ、何かあった?」 「昨日の部活が、」 と言いかけると、友達は「どうだったん?!」と目を輝かせる。 なにそのキラキラの目…今まで見たことないよ…。 友達のあまりのテンションの変わりように若干引きながら、(騒がしいこと以外は)普通だったよ、と告げた。 「えー!つまらんなぁ。ラブロマンスとかあってもええんちゃう?」 「いや…あってほしくないですね……」 「なんで敬語やねん」 「(昨日同じセリフを白石先輩に言われたからだよ…)」 「名前…俺とラブロマンスとか、ええんちゃう?」と、すばらしくイイ声で。(……思い出したら鳥肌が…) ラブロマンスなんて起こらなくていい。むしろ、全力で遠慮したい。 ていうかあの先輩はひとをからかう限度を越えてる。正直、あれだけイケメンじゃなければ気持ち悪い部類に入ると思う。 ……とは言えず、ううん、と唸って窓際の席についた。 友達は首を傾げたまま、そのうち自分の席に戻っていく。 同時にチャイムが鳴った。 一時間目はなんだったっけ、総合?なんか、自由な時間だった気が。 ……まあ、ここの学校は授業もはちゃめちゃで自由なのが多いんだけど。 この前の総合の時間は、ひどかった。お笑いのDVDを見せられ、研究だとか言ってペアを作らされて…思い出したくもない。 担任の先生が教室に入ってきたのを見て、机に顔を突っ伏した。 「おい」 「………」 「……おい、退けろや」 「はあ…?」 いつのまにか眠ってしまっていたみたいだ。寝惚けながら顔を上げ、声をかけてきた相手を確認する。 ……誰、このひと。逆光のせいでまったく見えない。 額がじんと熱いのを感じながら、しぱしぱと両目を瞬かせてみる。 「っ、ひぎゃ!!!」 「……ひぎゃ、って何やねん」 「なんっ……な、ざ…、ざいぜ、ん」 「呼び捨てするんか、お前」 「財前くん!!」 椅子をぎぃい、と行儀悪く引けば、目の前の不良さん――財前くんは、思い切り眉を顰めた。 うっ…うわぁ……眉、細い!ヤンキーだ…!てか何でこんな近距離? 何が起こったのかと思い周りを見渡すと、今まで隣にいた藤枝くんがいなくなっている。 ふじえだくんは、どこに…!!! 「ここ俺の席やから。退け」 「へっ…え?ど、どういう…」 「…話聞いてなかったんか。席替えや。お前はそっち」 財前くんが指差したのは、わたしが座っている隣の席。 ………はい…?(うそ、ちょっと待って待ってタンマ!!) 「せ、先生…!」 「何や名字、騒がしなぁ」 「…わたし、ここの席ですか?」 「おん。名字気持ち良さそ〜に眠っとったから、センセがくじ引いておいたで」 にへら、と気の抜けた笑みを見せる担任が憎い。憎すぎる。 席替えがあるなんて知らなかったし(多分突発的だろうけど)、くじ勝手に引かれたし、よりにもよって財前くんの隣、とか…!! 藤枝くんは見るからに爽やか系男子で性格も良くて、わたしみたいなのにも優しかったのに! ……ざ、財前くんは…。 「あ?何見てんねん」 「(ぎゃああ怖いぃ…!!)」 「邪魔。はよ移動せぇ言うとるやろ」 涙目になりながら鞄とサブバッグを抱え、隣の席に移動する。 財前くんは聞こえるぐらい大きく溜息をついて、わたしが座っていた席にどかりと座った。 そして先生のことなど気にしていないようにヘッドホンを耳につけ、窓の外を見つめ始める。 「(こっ、こわ…!めちゃくちゃ不良だよ…!)」 なるべく隣を見ないようにしていれば、思いっきり周りから突き刺さる視線。 …財前くんモテるんだなぁ。(…うう、視線がいたい……) やり場のない悲しさが込み上げて、頭を抱えたくなった。 この席にあの部活、……学校生活、上手くやってける気が、全くしない。 「名字、財前のヘッドホン注意してや〜」 「へ!?むっ無理です!!」 「(……うっさ…)」 ×
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