本気ですか







放課後。
職員室でのことを思い出すと、どうしても足取りが遅くなってしまう。



学校指定のジャージに着替えてテニスコートまで向かった。
白石先輩に「案内する」と言われたけど、一応先輩も部長なわけで忙しいだろうし…、なにより目立つのが嫌だ。
テニスコートぐらいなら一人でも行ける。昇降口から校庭に出て、変な門をくぐればすぐ、らしい。



けれど、さっきからその門が見つからない。(……迷った?学校で?)



わ、渡邊せんせーい…。
白石先輩に迷惑をかけるのは個人的に嫌なので、心の中で先生の名前を呼んでみた。


初日に遅刻するのはさすがにまずい。
それに、不本意ではあるけれどマネージャーの仕事はきちんとやるつもりでいる。




春先にしては、照りつける太陽のせいで外の気温は暑い。
ぼうっと立ったままのわたしの頭をじりじりと焦がす。
このまま外にいたら相当日焼けしそう。首筋から汗がたれた。





「(…とりあえず、右に行ってみよう…!)」




じっとしていても時間が過ぎていくだけだし、行動あるのみ!













「あった…!」





そんなに時間はかからず、門の目の前までやってくることができた。
遅刻せずに来れたことで思わず声をあげてしまう。
よかった、とりあえず中に入ろう。


変な門の中に、白いラインで引かれたコートが見える。





「名前」
「わっ!し、白石先輩…」





いきなり入っていくのもどうかと思い、冷たい門に手をかけてこっそりと中を覗く。
と、中から白石先輩が笑顔を浮かべながら声をかけてきた。(びっ、びっくり、した…)

他のひとはまだ来てないみたいだ。すこし人見知りの気があるわたしは、ちょっと安心する。




「迷わずに来れたんやな」
「はい、事前に友達に教えてもらってたので」
「ん。じゃ、行こか」




そう言って、ナチュラルに手を握られる。
……は、い?

いや、握られると言うよりは、指先だけで繋がっているという感じだ。
今までの強引さから言って思いきり握りそうな先輩の意外性を感じながらも、慌てて振りほどく。(なんなんだこの人……)


先輩は後ろを振り向き、不思議そうに首を傾げた。




「こういうの、嫌なん?」
「いや…いきなり手握る意味がわかりません」
「昨日名前のこと好きって言ったやろ。それ」
「えっ、あ、あれ本気だったんですか…?!」



驚きながら問い掛ければ、おん、と即座に頷かれる。(いや…、いやいやいや…!!)
吃驚しすぎて立ち止まってしまう。先輩はそんなわたしを見てくすくすと笑った。


てっきり脅したいがための言い訳だと思っていたし、そう思いたい。
…と言うか、うん、ありえない。絶対またからかっているだけだ。




白石先輩は口元を緩ませたあと、ショックで固まっているわたしの指先にもう一度触れる。




「あ。自己紹介、考えとった方がええよ」
「(先輩、何でわたしをからかうんだろ…意味わかんないな…)」
「名前の指柔らかいな」
「(…初対面で脅すし、マネジやらせようとするし…)」

「聞いとる?…指舐めるで」



一瞬で現実に引き戻された。
「聞いてます!!」と言ってまた、指先を振りほどく。



白石先輩は残念そうに眉を寄せて、薄く綺麗な唇を舌で舐めた。