のんきな先生 「はぁ…」 さいあくだ。最悪すぎて言葉もでない。 結局あの後、ぽかんとしているわたしに白石先輩は部活の登録用紙を渡して(…どこから取り出したんだろう)、流されるままにテニス部のマネージャーになってしまった。 今まではいわゆる帰宅部だったから、親に判子を貰おうと用紙を見せたらかなり驚かれた。 わたしだって、好きで部活に入るわけじゃない。全ては、白石先輩に脅されたから。 …なんて言えるはずもなく、「何かやってみたくなって」と誤魔化したけど。 マネージャーなんてめんどくさい…! いや、百歩譲って、コンタクトを返してもらうためにマネージャーになったのはいい。 けれど、それで白石先輩につきまとわれるなんて聞いてない。 今日の朝だって、わざわざ2年生の教室に来たから何の用かと思えば、「名前に会いたくなって」。 …会いたくなって、で会いに来られても困る。 それを耳元で囁かれたのはすっごく嫌だったけど、今思えば他の子に聞こえなかったし良かったのかもしれない。 あれが聞こえていたら、…と考えると恐ろしい。クラス中の目線を集めてしまうだろう。 もしかしたら学校中かもしれない。うわあああ、誰にも聞かれてなくてよかった…。 ついでにとマネージャー志望の用紙を渡せば、白石先輩は意地悪く笑って一度だけ頷いていた。 なんだったんだろう、あの表情…。 女子にきゃあきゃあ言われ、男子には不思議な顔で見られ(あ、一人だけすごく嫌そうな顔してる男子がいたっけ)、白石先輩は満足したように帰っていった。 意味が、わからない。まるで嵐のようだ。 昨日までは友達の噂もあって、白石先輩はかっこよく優しく完璧なひと、と言うイメージだったものの、それは今日一日で覆されてしまった。 強引で意味不明で、変なひと。 ああ、なんであの時コンタクトを落としてしまったんだろう…。 昨日から後悔してばかりだ。 そうは思うものの、廊下で頭を抱えるわけにもいかず、職員室まで向かう。 脅されたとは言え部活のマネージャーになったのだから、テニス部の顧問に挨拶をしなきゃ。 全くもって不本意だけど。 「……あれ、白石先輩?」 「ん、来ると思っとったで」 「(す、ストーカー…!)」 「名前のことやから、顧問の先生に挨拶しに来たんやろ?」 「…はい」 職員室の前のドアにたたずむ、先輩の姿。(イケメンは何をしても様になるからむかつく) ぎょっとして名前を呼べば、わたしに気付き嬉しそうな顔をした。 なにもかも読まれているのが悔しい。 つーか、何でここにいるんですか。 「…えっと、先輩は何でここに?」 「部長やからな。一緒に挨拶した方がええし」 「あ、はあ…そうですね」 白石先輩は、行こか、と呟いて職員室のドアを開けた。 どこかの机に向かって真っ直ぐ歩いていく先輩の後ろについていくと、わたなべ、と書かれたプレートが見えた。 「ん?白石、どないしてん」 「今日の朝話したやろ。マネジの子」 「ああー」 軽い調子で吐き出された言葉とともに、白石先輩の右横から先生が顔を出す。 変な柄の帽子、無精鬚、へにゃっとした表情。 ……ほんとに顧問なのかな、この人…。 「マネジ志望って、この子かぁ」 「……志望っていうか…無理矢理というか…」 「名前、なんか文句あるん?」 「ないです!」 隣でにこやかに微笑んでいる白石先輩を、精一杯睨んでみる。 顧問の先生は、そんなわたしを見てけらけらと笑った。 「テニス部の顧問やっとる渡邊オサムや。オサムちゃんでええでー」 「あ、はい!宜しくお願いします」 「よろしゅうな」 気の良さそうな笑顔を浮かべる渡邊先生に、頭を下げた。 ちょっと変な先生だけど、なんとかやってけそう、な気がする。 「な、ええ子やろ」 「おん。白石が好きそうなタイプや」 「横取りしたらあかんで?」 白石先輩はわたしの背中にするりと手を伸ばして、そう言う。 「…横取りもなにも、先輩の所有物じゃないんですけど」 「ちゃうん?」 「違いますよ!!」 「はは、冗談やて」 冗談ならその手離してください。 「ひっ、先輩どこ触ってるんですか…!」 「名前…腰細すぎるわ。栄養バランス考えて食事しとる?」 「仲ええなぁ自分ら」 「渡邊先生たすけて!!!」 ×
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