毒舌にアウェアネス









はぁあ。
情けのない溜息がもれて、教室を歩いていた先生が、机に置いていたわたしのノートをトンと叩いた。




「名字、おっきい溜息ついとるけど」
「す、すみません…」




へらりと笑った先生は、通り過ぎる直前でわたしの頭を撫でていった。クラスの子や友達がくすくすと笑う声が聞こえる。うわー、恥ずかしい…。

ノートの叩かれた箇所を見ると、ぐしゃぐしゃの黒い丸や誤字ばかり。


ほんと集中してないな、わたし。










「ださ」
「っな、…なに、財前くん」
「別に。なんも言うてへんけど」




隣からぼそりと呟かれた言葉にきっと睨みかけて、すぐにやめる。財前くんこわいし。


財前くんはお世辞にも上手いとは言えないペン回しをしながら、黒のイヤホンで音楽を聴いている。
あ、ヘッドホンからイヤホンに変えたんだ。




黒板に視線を移し、文字を目で追う。結構な時間ぼうっとしていたのか、ノートの最後に書かれた文字から大分進んでいた。







「…昨日の、放課後」
「え?」
「部長、一年のヤツに告られとった」
「……ああー、知ってるよ」




リコちゃん、告白したんだ。
財前くんの話を聞いた途端に早くなった鼓動は無視して、じっと黒板を見つめる。


上手くいったんだろうか。まぁ、わたしには関係ないけど。




「す、すきそうなタイプだったもんね」
「…はぁ?」
「いや、白石先輩が…好きそうな、」
「お前それ本気で言うてんのか」
「え…うん」





語気が荒くなったような気がして、財前くんを見つめる。
苛々を隠さずに思いっきり眉を顰めている彼は、今までで一番こわい。な、なんでそんな怒ってるの…?











「あの人のこと、好きなんやろ」





面倒そうな、素っ気無い話し方。突き刺さる視線。


しんぞうが、いたい。











「わ…わたしが?白石先輩を?そっ、それはないよ!わたし、顔かっこいいひと苦手だし、先輩って変だし、脅すし…」





シャーペンを握り締めて思いっきり首を振り、否定する。財前くんは途中からわたしの言葉に「あ?」とか「は?」とか言ってたけど、無理矢理最後まで言いきった。







「…めんどくさ」
「なにが…!」



「――はよ自覚せんと後悔するで」







ぱくぱくと唇を開閉させる。
心臓の音は耳元で聞こえるぐらい、大きい気がした。



だって、そんな、ありえない。
白石先輩は強引で意味不明で、へ、変態で…。








「ち、ちがうから!!」
「楽しそうやなぁ名字。センセも混ぜてくれへん?」
「…あっ」
「(あほ)」





 




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