反応する心臓









真剣な面持ちでわたしを見つめる、女の子。
余程緊張しているのかその瞳は潤んでいて、眉は下がっている。





「……」
「……(ええっと…)」




…この状況を傍から見れば、わたしが後輩をいじめているようにしか見えないと思うんだけど。



教室で、面倒そうに顔を歪めた財前くんに「お前に用あるらしいで」と声をかけられてから、数十分。
わたしに用があるらしい女の子は、人通りの少ない放送室の前までやってくると、それきり唇を噛んで黙ってしまった。


そのまま、沈黙が続いた五分間。もう一時間くらいに感じてきた。


…たぶん、この子が聞きたいのは白石先輩のことなんじゃないかな。
記憶が間違っていなければ、昨日廊下にいた子だ。




「(勘違いされてたら、誤解とかなきゃなぁ…)」




べつに付き合ってるわけじゃないし。
なんてぼんやり考えていれば、女の子が唇を開いた。








「名字先輩…ですよね。私、1年3組のリコって言います」
「は…はい」




緊張が移ってしまい、こくんと小さく頷いた。
その途端、女の子…えっと、リコちゃんは自分の制服の裾をぎゅっと掴む。どんだけ緊張してるんだ、リコちゃん。


素直にかわいいな、と思う。
色白の頬は薄ピンク色に染まっていて、潤んだ瞳は睫毛が長く、大きい。

こんな子に告白されたら誰でもオッケーするよね。
財前くんとか、忍足先輩とか…白石先輩とか。






「…先輩、急に呼び出されて、やっぱ怒ってますか…?」
「え!?ご、ごめんね!全然怒ってないよ」




いつのまにか眉間に皺が寄っていたみたいで、リコちゃんが不安そうにわたしを見上げた。

なんで今ちょっとむかついたんだろう。…白石先輩が思い浮かんだから?あのひと、話してる相手をイラッとさせるの得意っていうか……やば。失礼なこと言ってた。



手持ち無沙汰になって、なんとなく前髪をいじる。(…あ、枝毛)
枝毛と言えば、白石先輩ってよく髪の毛の匂い嗅ごうとするなぁ…。なんなんだろ、あれ。やめてほしい。

自分の髪の毛から、廊下の水飲み場に視線を移す。蛇口から、ぽたぽたと水滴が垂れる音がする。



リコちゃんは真っ赤な顔で、きゅっと唇を引き結び、わたしの目を見つめた。







「私……白石先輩に告白しようと思います」
「…え、」


「協力、してほしいんです」





予鈴のチャイムが鳴った。







***







「…なぁ財前。名字どうしたん?」
「は?…あー、こいつ昼休みからずっとこんな感じなんすわ」



忍足先輩と、財前くんが話している声が聞こえる。
…こんなんじゃだめだ。ちゃんと仕事しないと。


机に突っ伏していた身体を無理矢理起こし、部活の準備を始める。
ドリンクは用意してあるから…サーブ率チェックしてスコアノートに書こう。それが終わったらユニフォーム洗濯して、コート整備…で終わりかな。




「(…あと、白石先輩に言わなきゃ)」





放課後、図書室でリコちゃんが待ってますって。
白石先輩に、告白しようと。



「(先輩、付き合うのかな。ああいう子、すきそう)」




ちくちくと変に胸が痛むけれど、気にしたらきっと、だめになる気がする。

瞼を強く閉じてぱちんと頬を叩き(珍しく財前くんがぎょっとしてた)、思いきり部室のドアを開けた。