あのとき抱いた興味





(// 白石side)











隣で溜息をつく名前を見ながら、そう言えばあのときもこんな顔で溜息をついとったなぁと思い返す。





***




5月の初め。
その日は朝会があって、先生方がお決まりのコントをかましたんやったっけ。全校生徒がコケるなか、財前は相変わらず面倒そうな顔で突っ立っていた(こいつもお決まりやな)。でも、そんときはもう一人コケんかった子がおった。




それが、名前。
まぁそんときは「変わった子やな」としか思わんかったけど。







で、放課後。

俺が校内新聞に書いた毒草聖書を図書室に展示するっちゅうから、部活を抜けて職員室に向かおうと三階の廊下を歩いていたとき。
たしか謙也からメールがきて、ちょうど携帯いじってたんや。


ふと窓を見れば、北校舎の二階にある図書室の前をたくさんの校内新聞を抱えた名前が通った。







…あの子に頼んだんやろか。先生も適当やからなぁ。






重そうに溜息をつく様子の名前を見つめて苦笑を漏らし、運ぶのを手伝おうと窓枠から手を離す。







瞬間、名前が新聞を見て微笑んだ。
あまりにも唐突なその笑顔と、今まで仏頂面だった彼女とのギャップにつられて。



静かな校舎に携帯のシャッター音が響いた。









「……いや、なに撮ってんねん俺」





思わず声に出して、口元を押さえる。携帯の画面には微笑む名前の写真。


図書室の前に目を向ければ、シャッター音が聞こえたのか聞こえなかったのか、名前が不思議そうな顔でこちらを見つめていた。
あかん、バレたか。…ほんま何でこんな不審者まがいのことしてんねや、俺。




名前は俺を上から下まで見つめ、ジャージを見た途端に嫌そうな顔で視線をそらし、図書室に入っていった。





「(なんや、あの子)」






女の子と目が合えば恥ずかしそうに目をそらされるか、嬉しげに手を振ってくるか。
そう言う反応にしか慣れてへん俺は、ものすごく面食らったのを覚えてる。




その時点で、名前に対する興味は相当わいていた。










***







「先生、職員室は禁煙やで」





職員室に向かって、新聞運びを頼んできた先生に声をかける。
先生は吸っていた煙草を灰皿で揉み消すと、あぁ、と納得したような表情で膝を叩いた。




「おー白石。あの新聞、もう他の奴に頼んどいたんや」
「ああ、その子見かけたんやけど…図書室に寄ったら居なくなってて」
「自分惜しいなぁ〜、さっき帰ってったわ」
「そやったんですか…」




入れ違いになったっちゅうことやな。
話してみたかったんやけど……ま、完璧な攻略法を練ってからの方がええか。





「あ、白石が書いた毒草聖書…やったっけ?あれめっちゃウケてたで」
「…え」
「なんや笑いながら、大阪の人はこんなの書くんですかーって言うとった」



先生がけらけらと笑いながらそう言い、マグカップに入ったお茶を飲む。
………俺の書いたやつで笑っとったんか。てっきり小噺に笑ってたんかと思ったわ。





「なんて名前の子です?」
「名字名前や。昨日東京から転校してきてん」
「へぇ……名字さん、か」
「悪さしたらあかんで?うちのクラスの奴や」






にっこりと微笑む先生に、「そんなんわかってますわ」と返して、ポケットの携帯に触れた。








 




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