(14日に、なった)












携帯の画面が、しずかに発光する。サブディスプレイに表示された日時は「4/14 0:00」。

ついに14日になってしまった。今日は白石くんが生まれた日だ。

白石くんのアドレスは知ってるけれど、0時をすぎてからメールをしたり、電話はしないつもり。
健康体を目標とする白石くんだったらもう寝てそうだし…それになんて言っていいのわからない。
意地を張っていたぶん、ちゃんと白石くんの顔を見て祝いたい。そう、思った。
起きてからのことを考えると、ベッドにうずくまってごろごろと転がりたい気分になってくる。(なんて言おう、)

白石くんがわたしを好きなんて、今でも信じられない。
けど、テニスのこと以外であんな真剣な表情はじめて見た。かっこよかったなぁ…!
今日はもう寝ちゃおう。寝れなくなりそうだし。

布団に潜り込んで、アラームをかけようと携帯をひらく。
いつのまにかメールを受信していた。えーと、……謙也だ。こんな時間になんだろう。





『今日 白石の誕生日やで!!』




わかってるよ。ありがとう、謙也。









***




「一応メールしといたで!」
「はは、わざわざおおきに」


そわそわと忙しない謙也を見ながら、教室に来るまでに貰ってきたプレゼントを机に置く。
自分で言うのもなんやけど…今年もすごい量や。
まあ、一番祝ってほしい子からは祝ってもらえない、っちゅうのが現状やけど。

昨日のあの様子じゃ、無理やろ。名前に勢いで想いを伝えたら、泣きそうになって教室から出て行くし。
脈ナシ、か。傷つけたくはなかったんやけどな。はー、切な。




「あいつ祝う気になったんやろか?」
「んー、無理に祝ってもらわんでもええ」
「せやかて…、名前から一番祝われたいやろ」
「……そやなあ」




謙也から直球を食らう。(なんでこんなときだけ妙に鋭いんや)
貰った物ロッカーに入れてくるわ、と告げて席を立つ。謙也は悩んだ表情のままおん、と答えた。


廊下に出れば先輩やら後輩やらが口々におめでとう、と言ってくれる。
それにお礼を返して、ロッカーに貰った物を詰めた。名前はまだ来てへんかった。
来たとしても、祝ってもらえる確立は低いんやろうけど。





「あああ……どないしよ」
「ここでバタバタしてても、どうにもならんて」
「そやけど、…あ!!」



席について話し始めれば、謙也が教室のドア付近を見る。

そして大声をあげた。





「…あー、名前。おはよう」
「お…おはよ、う」



名前や。
ぎこちなくやけど、挨拶を返してくれて安心する。
名前は目線を合わせようとせず、そのまま自分の席まで行ってしまった。(あー、やっぱりか)
祝われないとわかっていたはずなのに、かなり辛かった。うわ、全然心構えできてへん。
謙也が気まずそうに窓を見つめている。

いや、わかってたはずやん。耐えろや俺。
口元を隠すように頬杖をついて、溜息を漏らした。






「……あ、あの、白石くん」





声につられて、ぱっと顔をあげる。
困ったように眉を寄せて、頬を染めながら俺を見つめる名前が立っていた。






「…! おん、何?」





緊張して上手く動かない口を無理矢理に動かす。(うわ、声震えそう)
名前は制服を強く掴んで、俯きながら唇を震わせている。髪から覗く耳が真っ赤や。


ふと名前が顔を上げると、俺の手をとる。指先が触れた瞬間、思わず肩が揺れてしもた。
熱い指先から、名前の緊張が伝わってきて心臓が高鳴る。
小さすぎて聞き取れないぐらいの声で「立って」と言われて、それに大人しく従った。

一部始終を眺めている謙也も緊張しとるらしい。(ごくりと喉を鳴らす音が聞こえてちょっと和んだ)









「誕生日おめでとう」




潤んだ瞳と、目が合う。




「白石くんが生まれてきてくれて、うれしい」




恥ずかしそうに頬を染め、名前がそう言って笑う。

何とも言えない感覚が、した。
心臓が痛いぐらいきゅんとして、足元から嬉しさがひろがるような。
…・…やばい、頭真っ白で、なんも考えられへん。



名前はそこまで言うとちいさく深呼吸をし始める。



そうしてぎゅっと俺の指先を握ったあと、すぐに離して、
俺の背中に手を回した。(………は、?)







「え、名前、」
「…白石くんが、すきです!」





謙也が「あ」と声を上げたのが聞こえる。

名前が顔を真っ赤にしながら、俺をぎゅうと抱き寄せていた。
これ妄想とちゃう、よな。どないしよ、心臓の音聞こえそうや!
ゆっくり、その背中に手を回す。名前は一瞬びくりと肩を揺らしたが、こちらを見上げることなく、黙ってじっとしている。
どうしようもなく嬉しくなった。





「それ、ほんま、に?」




俺がそう問うと、名前はこくりと頷く。
抱き締める力を強めてしまいそうになり、自分を抑えた。一旦、落ち着かな。
名前はゆっくりと俺から離れると、気まずそうに目線をそらして、もごもごと話し始める。





「あの…実は、ちゃんとしたプレゼント用意してなくて…。……えっと、…ぎゅってしたのがお祝いじゃ、だめかな」
「っ…!!(あかん、破壊力高い)」
「駄目なわけない!やろ、白石!!」
「…なんで謙也が答えんねん」



名前の言葉にどきどきと鼓動する胸を手で押さえていれば、謙也がけらけらと笑う。
溜息を吐きながらそれにつっこむと、つられて名前も微笑んだ。










4月14日。
俺の誕生日。名前に祝ってもらった大切な日や。


4月14日。
白石くんの誕生日。白石くんを祝えた大切な日。





(→あとがきとほんのちょっとのおまけ)



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