あっというまに、今日の授業が終わってしまった。
何回も白石くんと目が合いそうになって(ついつい見ちゃうから悪いんだけど)、そのたびにそらす。
それの繰り返しで、授業をほとんど聞いていなかった。何してるんだろ、わたし。
なにを言われるんだろう。「うざったい」とか言われたらどうしよう。(…あるかも……)


あともう半日で、14日になっちゃう。
14日になったら、白石くんは色んなひとに祝ってもらうんだろうなぁ。
そう思うと妙に悔しくなる。そして泣きたくなった。…自業自得なんだけど。


机に突っ伏して、すん、と鼻を鳴らす。木の匂いがした。
掃除を終えたクラスメイトたちは、もう部活に行ってしまっている。
教室にはわたしだけ。開けた窓から風が入ってきていて、いつのまにか流れていた涙で濡れた頬が冷たい。
これから白石くんが来るのに、泣いてたらだめだ。








「…あ、名前!良かった、待っててくれたんやな」



がらがらとドアが音をたてると、息の乱れた白石くんが教室に入ってきた。
白石くんの言葉にこくりと頷いて、高鳴る鼓動をおさえるためにぎゅっと手を握る。
平常心、平常心。
あと、失礼なことは言わないようにしないと。




「部活のメニュー伝えとったら遅うなって…ひとりで待ってたん?」
「みんな部活に行ったみたい」
「そっか」


なら好都合や、とちいさく呟いて笑う白石くん。(…好都合?)
首筋には汗が流れている。きっと急いできてくれたんだなと思うと、胸がきゅうとなった。
窓の近くに行って涼む白石くんを見つめながら、つめていた息を静かに吐く。




「もう知っとると思うんやけど…明日、俺の誕生日やねん」
「…う、うん」



白石くんが、窓の外を見ながらそう呟いた。
喉がからからに渇いていて、上手く声が出ない。気まずい雰囲気が続いている。



「この前名前は祝わないって言ってたけど、」
「………」
「ちゃんと、…おめでとう、て言うてほしいな」





どきりとする。心臓が止まってしまいそうだ。
縁に手をかけて、白石くんは夕焼けの空を見上げている。(あ、かっこいい…)
何でわたしに、祝ってほしいの?混乱して、思考が停止する。

なにか、言わなきゃ。

「…わ…わたしから言わなくったって、白石くんはいっぱい祝われるよ?」




ぽつりと、本音を漏らす。


そう。そうなんだ。祝わないと決めてから、ずっと考えてた。
学校で人気な白石くんには、たくさん祝ってくれるひとがいる。
その中には、最初のわたしのように告白しようと考えてるひともいるだろう。
大勢いる中で埋もれてしまうのが嫌。

クラスのみんなにあの謙也の大声のことで、わたしから白石くんへの好意がバレていて、
ふられたときに哀れまれるのが嫌。白石くんに気を使われるのは、もっといやだ。

全部、わたしのわがまま。
だから、もういっそ、祝わない方がいいような気がして。(それが間違ってるって、わかってるのに)




白石くんは黙ったあと、ゆっくりと振り向いてわたしを見つめた。




「名前が祝ってくれんと、明日幸せにならへん」
「…っ!……なんで、わたし?」


だめだよ。自惚れちゃうから。浮かれちゃうから。
涙が出そうになるのを堪えて、じっと白石くんを見つめ返した。









「好きやから」


「は…?」






「俺、名前のこと好きやで。やから名前に祝ってほしい。
……ほんまごめんな、わがまま言って」












(そんなの、そんなの、ぜったいうそだ)







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