「……つまり、名前の兄である跡部くんは、妹のマネージャー姿を見に来たと」 「日曜日にも部活はしてるって言ったのに…」 「早い方がいいだろうが。何か都合の悪いことでもあったのか?」 「いきなり来たらびっくりするじゃん」
テーブルを軽く叩いてお兄ちゃんをじっと見つめる。小春先輩がまあまあ、と笑ってわたしの頭を撫でた。 うー…思いついたら即行動するのは彼の悪いところだと思う。
今部室にいるのは、偉そうに椅子に座るお兄ちゃん、侑士先輩、白石先輩に忍足先輩、やる気のなさそうな顔で携帯をいじっている財前くん(帰ってもいいのに)、小春先輩と、それにくっついてきた一氏先輩。
小石川先輩と石田先輩は、気を遣ってくれたのか「俺らが聞くような話でもあらへんし」「せやなぁ…」なんて会話をして、先に帰っていった。……千歳先輩はまず、最初から部活に出ていない。
おつかいを頼まれていたのに"残りたい"と駄々をこねていた遠山くんは、白石先輩に、「めっちゃ難しい話やで。勉強よりも、もっとや」と言われて、走って帰っていってしまった。うーん、扱いが上手だ。
「…名字の兄貴が来るんは別にええねん。問題は侑士や」 「はぁ…しつこい男は嫌われんで」 「余計なお世話や!」
忍足先輩が侑士先輩を睨む。この二人は、イトコ同士らしい。 仲が悪いわけではないみたい…なんだけど、売り言葉に買い言葉って言うのかなあ。大阪弁を喋る二人のやりとりは、聞いているとハラハラする。
「俺は名前ちゃんに会いにきただけやで?」 「えっ!あ、あの」 「侑士ィ!!」 「せやけど、これからは口説けんようになるなぁ。彼氏できたんやろ?」 「――っ」
侑士先輩がワイシャツの襟をぱたぱたと揺らしながら、わたしに微笑みかけてきた。
うそ、なんで知ってるの…!?
あら、と小春先輩が黄色い声をあげる。 …と言うか、もしかして小春先輩、お兄ちゃんと侑士先輩がいるから残ったんじゃないだろうか。二人とも、贔屓目抜きにイケメンだし…。なんて言ったら、一氏先輩が騒ぎ出すからやめておこう。
彼氏発言にどきまぎしてしまい、真正面の椅子に座っている白石先輩の顔をちらりと盗み見る。 焦った様子もなければ、苦笑いすることもなく、ただ口元を緩めていた。
「…なあ、跡部もそれが心配で日にち早めたん…痛っ」 「忍足、少し静かにしてろ」
お兄ちゃんの肘が侑士先輩の腹部に当たった。う、うわ…痛そう。侑士先輩は口角をひくりと歪めながら、俯いている。
「……白石」 「なんや、跡部くん」 「お前ら二人が付き合うことに対して、口を出すつもりはねぇ。ただ、悲しませたり泣かせたりしやがったら――わかってるな?」 「はは、おっかないなぁ。…もちろん、重々承知やで」
白石先輩はにっこりと笑ったあとに、真剣な表情で、そう言い放つ。 侑士先輩のやれやれ、といったような表情に苦笑いを零せば、忍足先輩が息を漏らしたのがわかった。……緊張してたのかな。いや、わたしも同じような状態だけど。
ほっと胸を撫で下ろしていると、お兄ちゃんの鋭い瞳が白石先輩を見つめ、それからわたしに向いた。
「名前」 「は、はい!」 「困ったことがあったら言ってこい」 「………うん」
お兄ちゃんは優しげな表情でわたしを見つめ、さっき小春先輩に撫でられたところを、ちょっと痛いぐらいに撫でてきた。…お兄ちゃんに撫でられるの、久しぶりだな。小学生以来かもしれない。
「…ただ」 「? ただ?」 「彼氏の家に泊まるのはもう少し時間が経ってからにしろ…」
はあ、と溜息をつくお兄ちゃん。えっ、と声をあげる忍足先輩。なんや知らんかったんか、と侑士先輩が笑う。
あちゃー、と白石先輩が呟いた。
「蔵リン!詳しく聞かせなきゃ帰らせへんで〜!」 「小春っ浮気か!!」 「へえ。ブログのネタやな」 「わああ財前くんやめて!」 「白石…す、進んでるんやなぁ!」 「…謙也……そんな目で見んといてや」
◇◇◇
「…名前ちゃん、とられてしもたなぁ」 「忍足……いい加減に、」 「跡部だって寂しいやろ?」
俺の言葉をふん、と鼻で笑う跡部に、前を歩く名前ちゃんが首を傾げる。
「お兄ちゃん、今日の夜ご飯なにがいい?」 「……ローストビーフ、ヨークシャープティング添え」 「むっ、無理だよ!」
素直じゃあらへんなぁと含み笑いをして、歩き方のそっくりな、兄妹の後ろ姿を見つめた。
彼らのレンアイ
▽(みっこさまへ) リクエスト一つ目が変態シリーズ!やっぱりシリーズ中では一番人気なんでしょうか?白石くんの人気、凄まじいですね。 主人公、白石、跡部の絡みというリクエストでした。個人的な贔屓のせいか、侑士が存在を主張する作品になってしまったような気がします…。 そしてまさかの前編、後編という長いものになってしまいましたが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。 応援の言葉、とても嬉しかったです。これからも頑張っていきたいと思います〜!リクエストありがとうございました!
120428
|
|