◇ まちうけの話





「おは、…財前くん、どうしたの」
「……」




教室の後ろ側のドアから入ってきたかと思えば、鞄を乱暴にロッカーに突っ込んで、そのまま机に突っ伏してしまう彼の様子にぎょっとする。

その横顔はだるそうというか、不満がありありというか、…疲れてる…?
おかしいな、昨日の部活は大して疲れるようなものじゃないはず。寧ろ忍足先輩の方が、遠山くんに振り回されて大変だったぐらいだ。


無言のままの財前くんに首を傾げつつも、あまり関わらない方がいいかもしれないと前に向き直る。不機嫌そうだし、こわいし。





「お前のせいや」
「え、なにが?」
「部活終わりにお好み焼き屋行った思ったらなんで3時間も惚気聞かなあかんねんほんまキショイ」
「……た、大変だったね…だれの惚気?」
「はあ?んなもんお前の彼氏に決まっとるやろボケが」




イライラとした口調で言い切った財前くんの言葉に固まってしまい、言葉がでない。わたしの彼氏の、惚気?

頭に思い浮かぶのは白石先輩しかいなかった。う、うそでしょ。先輩、付き合ってまだ1日しかたってないのに(昨日の放課後の時点だったら数時間だ)、もうテニス部の人たちに惚気たりしたわけ…!!
あああ、部活のときでさえハイテンションだったんだからお好み焼き屋さんでは……うわぁ…もう、なんというか、




「すみませんでした!」
「善哉奢れや」
「うっ…わかった…」
「あと、名字」
「は、はい」




のそっと起き上がった財前くんがわたしを見つめる。細い眉がきゅっと寄せられていて、恐怖しか感じない。
なにを言われるんだろう、と身構えたそのとき、前側のドアが音をたてて開いた。




「名前!おはよう、会いたかったで」
「え、しっ…」
「部長の携帯のアレ、なんやねん。お前も変態になったんか」
「………白石先輩いいい!!!!」




まああんなのと付き合うくらいやから変態なんやろな、と呟いた財前くんに今はツッコまないとする(普段もツッコめないけど!)。
爽やかな笑顔で教室に入ってきた彼――白石先輩の待受を、なんとしても変えなければならない。








「朝から名前に会えて嬉しいわ」
「先輩!!待受変えてください今すぐに」
「え、気に入っとるんやけど」
「変えてください!!」



120119






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