「すきです」





蔵ノ介くん。


わたしの席からちょうど10歩で、蔵ノ介くんの席。
さらさらの髪の毛に、端正な顔立ち。やさしい声と、だれにでも親切な性格。
人当たりが良く、いつも穏やか。けれど時々、息がつまるほど真剣な表情をしていて、そこも好き。
お母さんみたいに世話焼きで、それでもちゃんと、男の子なんだ。


ボタンが取れかかってたときに直してくれたり、
テスト前にわざわざ勉強おしえてくれた。(そのとき、ぽんぽんって頭撫でられた)
授業中に目が合えば、にこ、って笑いかけてくれる、蔵ノ介くん。
なんでも教えてくれて、辛いときには助けてくれる、蔵ノ介くん。



蔵ノ介くんが、すき。




「おおきに、な」




西日が差し込む教室。蔵ノ介くんの、色素の薄い髪の毛がきれいなオレンジに染まっている。
まだ部活の終わっていない時間。開け放たれた窓からは、外にいる生徒の声が聞こえていた。少し騒がしいくらい。
なのに、蔵ノ介くんが喋るたび、わたしの世界は静寂を創り上げる。言葉がクリアに聞こえる。
ここはとっても静かだ。入り込んでくる風がつめたい。

ああ、わたしの頬は赤くなっていないかな。泣いてないかな。だいじょうぶかな。
不安に思いながら蔵ノ介くんを見つめると、長い睫毛に縁取られた曇りのない双眸が、すこし潤んでいて。
ほんとうにやさしいね。蔵ノ介くん。



「えっと」
「うん」


ゆっくりでいいんだよ。
あんまり考えなくてもいいんだよ。
ぜんぶ、わかってるの。





「名前」



なあに、蔵ノ介くん。



「俺、名前と気が合うし、一緒にいて楽しい。
名前が好きなんやと思う」



うれしいな。



「でも、……恋愛的な意味の、好きやなくて」



うん。



「嬉しいんやけど、ここから展開は、できへん」



そうだよね。



「…それに、俺な、好きなひと居って、」



知ってたよ。






「せやから、…ほんま、ごめん、」




わたしこそごめんね。苦しい思いさせて、ごめん。
もう知ってたんだ。わたしの告白を断るってこと。好きなひとがいるってこと。
けれどね。どうしても期待したかったんだ。
蔵ノ介くんは、わたしにどこまで優しくしてくれるんだろうって思ったの。
「もしかしたら」が存在するかもって、思ったの。

想いを告げた瞬間の、困ったような顔。
言葉をさがして震える唇。
戸惑いをみせた瞳の奥。


ああ、だめなんだな、って。





ぽろぽろと情けなく、落涙。



(フラれて泣くなんて、さいあく、だ)
(くらのすけくん、ごめんね、ごめんなさい、)




蔵ノ介くんの瞳が後悔したように見開かれて、それから手が伸びる。




「、名前っ」

「蔵ノ介くん、ごめんね」




涙を拭うその指が熱い。
こんなときまで優しくなくていいよ。ばか。









( もう 結果は見えてる )


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