「(どうしようかな…、これ)」


放課後の教室。窓際の席。午前授業で終わった今日、3月3日。みんなが帰り始めたのはもう一時間も前だった。
椅子の上に行儀悪く足を乗せて、窮屈な体育座り。膝の上には、ピンク色のリボンで結ばれた淡い水色の袋。
半透明の袋の中には清潔感のあるタオルと、男の子でも使えそうな黒のブラシ。





ぜんぶぜんぶ、凛くんの誕生日のために用意していたプレゼント。
でも、わたしは未だ本人に渡せずに、それを見つめながら教室でうだうだとしている。



席が隣でよく話すからって、軽々しくプレゼントなんてあげてもいいのかな。
タオルとブラシなんて、センスも良くないんじゃないか。要らないって言われたらどうしよう。
延々と、悩みは尽きない。(すきだから、気にしちゃうんだろうけど…)



好きなひとには喜んでほしい。誕生日だし、なおさら。
教室の窓から差し込む太陽が眩しくて、プレゼントを抱え込みながらはあ、と溜息をついた。







「名前ー」
「うわっ!」
「わんの顔見てうわ、て失礼やんやぁ」
「ごめん…」




がらがらと開くドアの音に横を向けば、教室に入ってきたのは紛れもなく、り、凛くん!
驚きすぎて心臓が出そうになる。余計なことを言わないように、唇を噛んで片手で押さえた。
水色の袋はもう片方の手で背中に隠す。…あ、隠しちゃった。勢いで渡せばよかったのに…。
椅子の上に乗せていた足を降ろして、こっそり深呼吸する。心臓がどきどきしているのがわかって、恥ずかしくなった。




「ぬーしよっと?」
「えっと……暇潰し」
「教室で?」




驚いたように聞かれてこくこくと頷いた。ちょっと無理矢理だったかもしれない。
ふうん、と呟いてわたしの顔をじいっと見つめ、それから隠した左手の方を見る凛くん。
その瞬間、にや、と意地悪そうな顔になった。(その顔もかっこいい、とか、ずるい)



「その隠してんの、ゲームやっさー」
「ち、ちがうよ!」
「一人で暇潰しすんの、そんぐらいしかねんし?」




何のソフト?と聞きながらけらけら笑う。だから違うって、と首を振った。ほんとにゲームじゃないのに…!

凛くんはつまらなさそうに眉を寄せ、荒々しくわたしの隣の席に座った。そのまま机に肘をつく。




「なんで座ったの…?」
「ここ、わんの席」




そっか、と言うと、うん。と短く返答。気まずくてすぐに黙ってしまう。
窓からは刺すような太陽光がじりじりと頭皮を焼いていて、暑い。プレゼントの袋が手の汗で滑り落ちそうだ。
体勢を整えて、両手で袋を持ち直す。
かさかさと小さな音が鳴ると、凛くんは一瞥して、すぐに目をそらした。





「ゲームじゃねんなら、何?」




ぼうっと凛くんの横顔を眺めていれば、ぼそ、と小さな声で問われる。(ああもう、渡すなら今しかないかも、)
そう思い立って、袋を握る手に力を込めた。
なにも答えないわたしに凛くんが呆れたように、机に突っ伏す。
背中から袋をそうっと出して、皺ができていないか見つめた。…大丈夫そう。
震える喉でもう一度深呼吸。渡せればいい、要らないって言われる前に逃げちゃえば、いい。





「凛くん、」
「……」
「…た、誕生日、おめでと」




突っ伏したまま返事をしてくれない凛くんの頭の近くにそっと袋を乗せて、机にかけた鞄を手に取る。
たぶん今、すごく顔が赤い。泣いちゃいそうだし、帰ろう。なにも言われないうちに。


そのてを、ぐい、と引き寄せられた。





「なん?これ」
「誕生日プレゼント…」
「……わんの?わざわざ用意しって?」
「う、うん」



潤んでくる瞳を隠そうと握られていない手で隠す。凛くんの手はとても熱い。部活の休憩だったんだろうか。
何も言わない凛くんに、首を傾げてみる。俯いたその顔から表情が読み取れなくて、こわい。
やっぱり要らなかったんだろうか。どう返そうか考えてたりして。(うわ、泣きそう)





「開けて、い?」




うん、と渇いた喉で返事すると、凛くんはわたしの腕から手を離して袋を開け始めた。
しんとした教室に袋を開ける音が響いて、鼓動が高鳴る。すごく緊張してきた。





「タオルと、ブラシ」
「部活で汗かくかなって思って…ブラシは、凛くん髪の毛きれいだから」
「…にふぇーでーびる…!うっさんやー!」
「に、にふぇ…?」
「ん。ありがと、嬉しいってことさぁ」




へら、とわたしを見上げて嬉しげに笑った凛くんがかっこよくて、その言葉がうれしくて。
さっきとは違う気持ちで、涙がでそうになった。







「名前、もーいっかい」
「何を?」
「おめでと、って」



「…凛くん、誕生日おめでとう」









(0303 凛くん誕生日おめでとう!)


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