ざあざあと音をかき鳴らしながら、雨が地面を叩きつけている。
季節外れのアイスが入ったビニール袋は、びしょびしょになって、わたしの身体に張り付いた。

屋上からの景色は、雨のせいであまり綺麗じゃない。
わたしの心の内を知ってか知らずか、冷たい雨は降り続ける。


髪や肩が濡れていても、手が冷たくなっても、
もう仁王はわたしの元に来てくれないだろう。



「(ざまあみろ、)」



この関係は、終わったのだ。







元々、仁王がわたしに何の好意も抱いてないのは知っていた。
ただの友達で、それ以上にはなれない。
仁王の好きなあの子には彼氏がいて、それでもあの子を諦められずに、苛々する。


その気持ちが痛いくらいわかるから―――だから、始まりを持ち掛けたのはわたしだった。












「付き合おうよ」




薄っぺらい仁王の背中を抱き寄せたわたしの手は、今思えば、ひどく震えていた気がする。

終止符を打ってと願ったのは、わたし。

きっと仁王にはわかっていたんだろう。
わたしが仁王を好きなこと。あの夏の夜に、すべて気付いてしまったんだろう。


それを利用してくれて良かった。わたしを代わりにしてほしかった。












「(…あ、結局…)」



仁王のこと、名前で呼べなかったな。





雨が小降りになる。
夏の夜はあっという間で、すぐに秋。そして冬へ変わっていく。
冷たい気温に身を震わせて、白い息を吐いた。
曇り空のせいか、いつもより時間が経つのが早く感じる。






「…っ、う」


なに泣いてるんだろう、わたしは。
仁王がわたしを好きじゃないことなんて、わかりきってるのに。



嗚咽を堪えて喉に力を込める。途端にぎゅっと心臓が痛んで、ずるずると座り込んだ。
濡れた地面は冷たい。
泣くのを我慢しようとすればするほど、余計に苦しくなった。




あの子の代わりになんて、なれない。
彼は、ただ、さみしかっただけだ。






◇◇◇



雨はやがて止み、雪が降り始めた。空を見上げたあと、周りを見渡す。
白と銀がちかちかと目の前を照らして、笑みが零れる。

冷えて意識のなくなった指先から、ビニール袋が滑り落ちた。




「ねえ、雪ってさ、仁王の髪の毛みたいだよ」



掠れた声で呟いて、薄くつもった雪の上に寝そべる。熱くなった瞼には、冷たさが丁度よかった。



ぼやけた視界に、白色が舞う。
宝石みたいできれいだ。











「もう終わりにした方が、いいよね」


最後だと決めて、そう呟く。
仁王は頷くことはせず、わたしをじっと見つめた。


「なぁ、名前ちゃん」
「ん?」
「好きじゃ」
「…ふふ、仁王の嘘つき」









「(…なんで仁王は、最後に笑ってたんだろう)」



すべて嘘なのに、笑ったの?
もう聞けない問いを心の中で繰り返して、地面に散らばった雪を、指で押し潰す。
仁王にとって、わたしと過ごしたくだらない時間が、苦い思い出でもいいよ。
でも、そのかわりに、






「わすれないで」





わたしも忘れないから。




打算的で嘘だらけの、幸せな日々をありがとう。








崩壊疑似恋愛







瞳を開けたとき、わたしの目の前は銀色に包まれていた。

「――バカ、」


耳元で聞こえた声が夢でないようにと願って、その温もりを、抱きしめる。





(イメージ曲:倉/橋ヨ/エ/コ/「ジュ/エ/リー」)



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