ざあざあと音をかき鳴らしながら、雨が地面を叩きつけている。 季節外れのアイスが入ったビニール袋は、びしょびしょになって、わたしの身体に張り付いた。
屋上からの景色は、雨のせいであまり綺麗じゃない。 わたしの心の内を知ってか知らずか、冷たい雨は降り続ける。
髪や肩が濡れていても、手が冷たくなっても、 もう仁王はわたしの元に来てくれないだろう。
「(ざまあみろ、)」
この関係は、終わったのだ。
元々、仁王がわたしに何の好意も抱いてないのは知っていた。 ただの友達で、それ以上にはなれない。 仁王の好きなあの子には彼氏がいて、それでもあの子を諦められずに、苛々する。
その気持ちが痛いくらいわかるから―――だから、始まりを持ち掛けたのはわたしだった。
*
「付き合おうよ」
薄っぺらい仁王の背中を抱き寄せたわたしの手は、今思えば、ひどく震えていた気がする。
終止符を打ってと願ったのは、わたし。
きっと仁王にはわかっていたんだろう。 わたしが仁王を好きなこと。あの夏の夜に、すべて気付いてしまったんだろう。
それを利用してくれて良かった。わたしを代わりにしてほしかった。
*
「(…あ、結局…)」
仁王のこと、名前で呼べなかったな。
雨が小降りになる。 夏の夜はあっという間で、すぐに秋。そして冬へ変わっていく。 冷たい気温に身を震わせて、白い息を吐いた。 曇り空のせいか、いつもより時間が経つのが早く感じる。
「…っ、う」
なに泣いてるんだろう、わたしは。 仁王がわたしを好きじゃないことなんて、わかりきってるのに。
嗚咽を堪えて喉に力を込める。途端にぎゅっと心臓が痛んで、ずるずると座り込んだ。 濡れた地面は冷たい。 泣くのを我慢しようとすればするほど、余計に苦しくなった。
あの子の代わりになんて、なれない。 彼は、ただ、さみしかっただけだ。
◇◇◇
雨はやがて止み、雪が降り始めた。空を見上げたあと、周りを見渡す。 白と銀がちかちかと目の前を照らして、笑みが零れる。
冷えて意識のなくなった指先から、ビニール袋が滑り落ちた。
「ねえ、雪ってさ、仁王の髪の毛みたいだよ」
掠れた声で呟いて、薄くつもった雪の上に寝そべる。熱くなった瞼には、冷たさが丁度よかった。
ぼやけた視界に、白色が舞う。 宝石みたいできれいだ。
*
「もう終わりにした方が、いいよね」
最後だと決めて、そう呟く。 仁王は頷くことはせず、わたしをじっと見つめた。
「なぁ、名前ちゃん」 「ん?」 「好きじゃ」 「…ふふ、仁王の嘘つき」
*
「(…なんで仁王は、最後に笑ってたんだろう)」
すべて嘘なのに、笑ったの? もう聞けない問いを心の中で繰り返して、地面に散らばった雪を、指で押し潰す。 仁王にとって、わたしと過ごしたくだらない時間が、苦い思い出でもいいよ。 でも、そのかわりに、
「わすれないで」
わたしも忘れないから。
打算的で嘘だらけの、幸せな日々をありがとう。
崩壊疑似恋愛
瞳を開けたとき、わたしの目の前は銀色に包まれていた。
「――バカ、」
耳元で聞こえた声が夢でないようにと願って、その温もりを、抱きしめる。
(イメージ曲:倉/橋ヨ/エ/コ/「ジュ/エ/リー」)
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