「(…あ、今日赤也の誕生日じゃなかったっけ)」
ふと思い出して、やば、と呟く。
そうだ。9月25日って、赤也の誕生日じゃん。男女問わず先輩達がクラスに来たり、友達が騒いでると思ったら……。 赤也の前の席で、それなりに仲が良いはずなのに気付かないわたしもわたしだけど。
鞄から携帯を取り出して時間を確認する。ディスプレイに点滅する文字は「18:01」と表示されていて、溜息が漏れた。 雑誌を読み始めてから三十分は経っている。と言うことは、学校を出て一時間ぐらい経過してんのかぁ…。
「(…今から学校行ってもなぁ…部活終わってるよね)」
ざあざあと音を鳴らして降っている雨は、一向に止もうとしない。帰りに見たグラウンドやテニスコートはぐちゃぐちゃだった。 室内でやるぶんにも限度があるし。さて、どうしよう。
ふわぁと気の抜けた欠伸をして、コンビニの窓から厚い雲に覆われている空を見た。
もう秋が始まってきていると言うのに、冷房のあまりの肌寒さに肩を震わせる。…管理してないのかな?こんな寒いのに。 読んでいた雑誌を置いてから、もう一度外を見つめた。
「…あ」
なんとなく傘置き場を見つめると、持ってきたはずの傘がなくなっていたことに気付く。 うわ、とられた…人の迷惑考えてないなぁ全く。
もう一度大きく溜息をついて、赤也の誕生日プレゼントでも買おうかと店内を見回した。
「(そう言えば今日、妙に話しかけてきてたなぁ、赤也…)」
お菓子売り場に陳列されている可愛らしいパッケージを手にとりながら、そんなことを思う。
たとえば、朝に「おはよう」と挨拶すれば「はよ。なぁ、今日何の日だと思う?」とか。ふつうなら思い出すところだよね…。なんで全然わかんなかったんだろう。
……授業中に髪の毛触られたのはさすがにびっくりしたけど。 「お前、髪の毛きれいだな」と、後ろから囁かれた声が脳内で勝手に再生される。 赤也なりのアピールだったのかな。うーん、気付かなくてごめん。あとでメールでもしとこう。
苺が描かれたチョコレートを手にとって、レジに向かう。これも明日渡そうっと。
***
「あー…傘ないんだった」
コンビニの軒先に出てそう呟き、すこし濡れたスカートを袖で拭く。 家まで歩いたら二十分、走れば十五分…雨も止みそうにないしなぁ。
数分悩んでから決意をして鞄を頭に乗せ、一歩踏み出そうとした。
「っわ、」
なんか、腕を掴まれた感覚が。
「名前、何してんだよ」 「え、……赤也!」
くるりと振り返れば、そこには不機嫌そうに顔を顰めた赤也がいた。唇の近くにテープが貼ってある。…怪我したのかな?
それにしても、びっくりした。 途端に大きくなる鼓動の音を無視して、平静を装う。
赤也は今までコンビニにいたようで(ぜんぜん気付かなかった)、コンビニのビニール袋を両腕にかけていた。 その腕でわたしの手首を掴んでいるのを見ると、どんだけ買ってるの、とつっこみたくなる。
「聞いてんだけど」 「え?あ、雑誌読んでて…それと雨宿り?」 「…ふーん」
そう返す赤也に少し呆れつつ、誕生日のことをどう言い出そうかと悩む。 ……まぁ、普通に言えばいいよね。うん。
掴まれた手首がすこし痛いけれど、振り払うのは怖いからそのままにして口を開く。
「あと、これ買ってた」 「は?」 「苺チョコ。誕生日おめでと」 「……、」
さっき買ったチョコレートを袋から出して、赤也のブレザーのポケットに無理矢理入れる。 赤也は口をぱくぱくと開閉させて、思いきりわたしの手首を握り締めた。
「いたたた!」 「言うの遅ぇし!しかも苺チョコって意味わかんねぇっつの!」 「えええ…!?赤也は何が欲しいの」
ぱっと手首を離される。わー…痣になったらどうしよう。 薄っすらと赤くなっている痕を擦りながら、悩んでいる赤也を見つめる。
高いのは買えないからね、と念を押すと「おう」と短く返された。
「…あー、じゃあ、ちょっとそこの傘取ってくんねぇ?」 「これ?」
なにか思いついた様子の赤也は、大きな透明のビニール傘を顎で指した。 その傘を手に取り赤也に渡そうとして、気付く。……赤也、両手に袋持ってるんだけど。
「それ、差せよ」
思わず首を傾げそうになったけれど、赤也がものすごく怖い顔で睨んでくるからやめた。大人しく言うとおりにして傘を差すと、赤也は少しだけ口元を緩めて笑う。
「……え、ちょっと、赤也!」
赤也がそのままどんどん歩いていってしまうから、慌てて傘を持ちながらそのあとを追った。…あ、あれ。これって相合傘とか言うやつなんじゃないんですか?
頬が一気に熱くなって、頭がぼうっとした。
「お前からのプレゼント、これでいーや」 「ど、どういう意味…?」 「…一緒に帰ろうっつってんだよ、バカ!」
![](//static.nanos.jp/upload/g/gelsemium/mtr/0/0/20110925233812.jpg) ( 触れる肩は あつい )
「…やっぱ名前って髪の毛きれいだよな」 「ちっ近いんだけど…!」
(0925 赤也誕生日おめでとう!)
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