「…うわ、もしかして」
「ん?」






バッグの底の固い感触。入れっぱなしにしたまんま、忘れてたやつだ。なに、どないしたん。そう聞きながら近付いてくる蔵ノ介に、鮮やかな黄色の箱を見せた。
蔵ノ介は首を傾げてじっと見つめたあと、ああ、と納得したように頷く。





「キャラメル?」
「うん。暑さでべったべたになってる…」
「あー、残念やなぁ」





振っても全く音がしない。ということは、中で粒同士がくっついちゃってる可能性が高い。お菓子にしてはわりと高かったのになぁ、これ。箱から取り出すと、薄い包み紙からキャラメルがはみ出ていた。
触った指がべとつく。このまま捨てればよかったかも……でも勿体無いし。包み紙を無理矢理引っ張って開け、溶けかけたそれをつまむ。






「冷凍庫入れたら固まるかもしれへんのに」
「…開ける前に言ってよ」






唇を尖らせて文句を言えば、苦笑いで頭を撫でられた。蔵ノ介がよくする、子供扱いだ。むっとしながらキャラメルを口に含む。どろどろだけど、まぁ味は変わってないからいっか。甘さに頬を緩めていれば、蔵ノ介が箱を手に取った。そしてわたしと同じように包み紙を取り、キャラメルを親指と人差し指で掴んだ。







「それ、」





食べるの、と言いかけて、その指がいきなりわたしの唇を這ったので黙った。え、なに。べたついた感覚に眉を顰めると、愉しそうに笑われる。口を閉じたまま蔵ノ介を上目で見遣ると、どろりとしたキャラメルを押しつけられた。







「あーん」
「……なんで?」
「ベタベタするから、はよ食べや」





自分で取ったんじゃん。とは言えず、大人しくキャラメルを歯で挟む。口を開けて食べるのは、癇に障るからしなかった。満足そうに微笑む蔵ノ介を見ながら、咥内のキャラメルを舌で溶かして、べたべたの唇を舐める。うええ、激甘…多分まだべたべたしてるだろうし、洗面所かりようかな……。








「次、俺の指も」
「えっ」





ぐい、と咥内にねじ込まれた指先に、思考が停止してしまう。親指と人差し指が舌先を這うように移動して、甘さが口いっぱいに広がった。



………いや、なにこの妙なシチュエーション。蔵ノ介は「ちゃんと綺麗にせな、あかんで」と言いきり、指先を動かす。べたついたそれを噛んでやろうと力を込めたら、舌を引っ張られた。よ、よだれが垂れる…!!噛むのをやめて睨むと、くつくつと喉奥で笑われる。






彼氏の前で涎をたらすのはなかなか屈辱的だ。そう思い、両手で蔵ノ介の腕を掴み(これ以上奥に突っ込まれないように)、嫌々ながらゆっくり指を舐める。なんだこいつ、変態か。


いつ蔵ノ介のお母さんやお姉さん、友香里ちゃんが帰ってくるかと思うと不安になる。客観的に見たらわたしの方が変態に見えるんじゃないかな、この場合。蔵ノ介の指を率先して舐めてる痴女にしか見えないよ。








「名前、上手やで」
「(…わたし、犬じゃないんだけど)」







余った片手で髪の毛をくしゃくしゃと撫ぜられる。文句を言いたいものの、咥内の圧迫感がひどくて喋れそうにない。もう早く終わらせたい。


そう思い、甘さのなくなってきた指を軽く噛むと、蔵ノ介が瞳を細めた。こくり、と喉の鳴る音が聞こえて、……あ、この顔見たことある……スイッチ入った顔だ。






慌てて唇を開け(やばい涎たれそうになった)、掴んでいた腕を離し、小さく呼吸してから蔵ノ介に向き直った。うわああマジな顔してるよ!!む、むり、今からは無理。暑いし無理。というかそろそろ友香里ちゃん帰ってくるんじゃ…!!後退りをして、ソファの一番端に寄る。




「だめだめだめ、今日は絶対だめだって」
「あー、ちょっと無理かもしれへん」
「なんでそんな発情してるの」
「…噛むからやろ」
「意味がわからな……っひ、す、ストップ!」





 (きっかけは単純で不純)




「ただいまぁ。あれ、名前ちゃん来とるん?」
「ゆ、友香里ちゃん助けて!」
「…んー、残念やなぁ」





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