氷が鳴る。 注いでおいた麦茶はエアコンのおかげで、温くならずにすんでいた。 ピピ、と独特の高い音がして、名前が体温計を見つめる。
「…7度5分?」 「わたし、平熱低いから…7度でも高いかも」 「見てたらわかるわ」
赤く染まった名前の頬に触れて小さく舌打ちをする。普段より幾らか、体温が高い。 名前の耳にもそれが聞こえたのか、申し訳なさそうに、潤んだ瞳をこちらに向けた。
……こんな顔させたいわけ、ちゃうのに。
部屋の時計を見れば、17時半。
1時間前くらいに、部活中にぶっ倒れた名前を「家が近いから」と俺の家まで連れてきた。 炎天下の中でのマネジ仕事やら何やらが重なって熱を出したらしい。
名前の両親は夜遅くまで帰って来ないらしく、外が暗くなるまでの間、看病をすると決めたのはええけど。 玄関の壁にかけられたカレンダーを見て、今日が自分の誕生日だと言うことに気付いた。
別に、拗ねてるわけやない。ただ、名前が誕生日を忘れているのかもしれへんことに、すこし、苛つく。 彼女なんやから覚えとけとか、そんなことを言うつもりは全くない、けど。
「ごめん……ちょっと色々考えてて…」 「…知恵熱?」 「そうだと思う…」
熱出すほど、なに考えてたん。
とは聞けず、唇をすこしだけ噛んで溜息をつく。 ぼんやりとした喋り方でそう伝える名前は、熱のせいで話すのも辛そうや。 そんな状態を気遣うこともできず、あほか、と吐き捨てた。
アホは俺やっちゅうねん。
名前は薄い水色のタオルケットを鼻先まで上げて、ごめんね、ともう一度弱々しく謝った。 白いシーツからは俺の使ってる制汗剤の匂いがするのに、部屋には既に名前の甘い匂いが揺れている。 今日の夜はこれを使って寝るのかと思うと、背筋がぞくりと粟立った気がした。
頭を過ぎった欲を捨てようと、ペットボトルの麦茶を飲み干す。
ああ、そう言えば名前にも水分とらせんとあかんか。冷蔵庫にスポドリあったような気ぃする。
「えっと、光くん」 「あんま喋んなや。もっと具合悪うなるやろ」 「でも言いたいことあるから……」 「…なに」
短く聞き返すと、名前は苦しそうな声で唸ってから俺を見つめた。 熱にうかされた双眸はへんに潤っている。それを真正面から見たせいで、どくどくと心臓が高鳴ってしまう。 妙な気分なってる場合ちゃうやろ、と自分にツッコミを入れて、静かに深呼吸を繰り返す。
名前はタオルケットをおずおずと下ろし、緊張した面持ちで唇をひらいた。
「誕生日…おめでと」 「…は?」 「プレゼント悩んじゃって、結局、なにもないんだけど……」
へへ、と情けなく笑って、恥ずかしそうな顔をする名前。その頬はさっきよりも赤い。 何なん、この、あほ。ほんま、ふざけんな。
悔しくなって、その唇に、噛み付くようなキスをした。
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「……あっつ」 「つめた!」 「熱んせいか…」 「麦茶のせい?」
(0720 財前くん誕生日おめでとう!)
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