……あれ?




人数分用意したはずなのに、手には余ってしまったドリンクのボトル。


誰の分だろう…。ええと、白石くん、小石川くん、謙也くん、銀さん、ラブルス二人…、金ちゃんは真っ先に取りに来たから違うか…。千歳くんは今日は来ないらしいから、元々作ってないしなぁ。



じりじりと頭を刺すような太陽光は、思考を鈍らせる。持参したアイスノンを頭に当てていると、ふと、後輩の姿が思い浮かんだ。






「あ、光くんのか…!」
「財前がどうかしたん?」





真正面からいきなり声をかけられて、思わず仰け反る。


……し、白石くん。びっくりした。
思わずドリンクで壁を作ってしまったのを申し訳なく思いつつ、余ってしまった訳を話した。







「じゃあ、探して呼んできてもらえへん?」
「ひ、光くんを?」
「名前は妙にからかわれとるし、やっぱ嫌か…」
「嫌じゃないけど…またキツいこと言われるかと思うと…!!」
「はは、せやなぁ。図書委員やから、図書室におると思うで。居らんかったら戻ってきてええから」
「……はーい…」





よろしゅうな、と微笑む白石くんは、何気に強引だ。ひらひらと手を振って、コートから出る。まあでも、図書室ならクーラーきいてて涼しいはず!サボるわけじゃないけど、すこし一休みしよっと。(…あれ?結局サボリ、かな)



こんな暑い日だとすぐに熱中症になっちゃいそうだ。
外靴からスリッパに履き替えて室内に入ると、日差しが無いぶん幾らか涼しかった。







図書室を見つけて、ガラス戸を遠慮がちに2回ノックする。管理担当する生徒がいるときは、司書さんいないんだっけ…?でも、中から返事がないってことは光くんもいないってことかな。





「失礼しまーす…」





すっとした冷気が、ジャージの隙間から流れ込んでくる。クーラーが丁度良く効いていて気持ちいい。涼しさに頬が緩んだものの、あまり自分から入らない場所に緊張してしまう。スリッパのぱたぱたとした軽い音が、図書室の床に響いた。




うーん、光くんいないみたい…。




ぐるっと本棚を見て回ったものの、そこにお目当ての人物はいない。
あと探していないのは、司書さんが使う部屋ぐらいだ。勝手に入室しちゃいけない場所らしいから、余計に緊張する。












外から少しだけ眺めると、ソファにもたれている黒髪が見えた。





「あ……寝てる?」





ヘッドホンを耳につけ、雑誌を膝に乗せて、目を閉じる姿。…まさか眠ってるとは思わなかった。それにしても、さすがイケメンだ。そのまま魅入ってしまう。
そうっと司書さんが使う部屋に入って、ソファに近付く。




「意外とあどけない顔してるなぁ…」





普段の光くんは、先輩にもはっきり言うような子だから(特にわたしと謙也くんに対して)、こんなに落ち着いた寝顔を見るのはかなりレアかもしれない。



嬉しくなって思わず、ふへ、と声が漏れた。
やば、笑っちゃった。





その瞬間、光くんが身じろぎをする。…危ない危ない…!あんまり大きい声出さないようにしないと。こんなチャンス滅多にないし、できれば写真でも撮りたいけど…携帯持ってきてたか
なぁ。ジャージのポケットを探りながら、足音がしないようにゆっくりと光くんに近付く。




携帯は持ってきてないみたいだ。きっと部室の鞄の中にある。すごく残念だけれど、しょうがない。……そうだ!熟睡してるみたいだし…、何かしちゃおうかな。
思いつくと、むくむくと広がっていく悪戯心。だってこんなに無防備な光くん見たことないし…!好奇心に勝つことは無理と悟り、もう少しだけ近付いて観察する。




色白で睫毛が長い。顔立ちだけだったら立派な女の子だなぁ…羨ましい。
薄い唇からは、心地好さそうな寝息が零れていた。





まずはそっと、頭頂部の髪の毛に触ってみる。ワックスをつけているのか、すこし硬めの黒髪。それにしてはツヤがあって、さらさらしている。撫でるように指先を動かすと、「んん、」と呟かれて、光くんは眉を寄せた。



あっ…あぶなかった……でもなんか…可愛い…!!母性本能がくすぐられる反応をしてくれる光くん(睡眠中)は、普段より子供っぽい。






調子にのって、頬を軽く抓ってみた。(ここで光くんに起きられたら人生終わる…)

わ、見かけによらず意外ともちもちしてる。……と言うか、ふにふに?光くんって細いから、もっと骨ばっているのかと思った。感触を楽しむように撫でたりつまんだりを繰り返す。






次は……よし、思いきって、鼻を押さえてみよう。
すっと筋の通った綺麗な鼻に触れる。…光くん、どうか目を覚ましませんように。



十数秒後、光くんが嫌そうに唸ったので慌てて手を離す。か、かわ、かわいい…!そのうち寝息が聞こえたので、起きなかったみたいだ。寝つきがいいのか、一回寝ると起きない体質なのか、光くんは全く起きる気配がない。





「……なんか、死んでるみたい」





光くんの寝顔はあまりに整いすぎていて、まるで、死んでるみたいだった。透明感のある肌に触れて、溜息をつく。いいなぁ、こんだけイケメンだったら可愛い子落とし放題だよ……あ、そろそろ起こさなきゃいけないかな。もう少しだけ、可愛い光くんを楽しんでたいんだけど。(…うーん、でもだめか)



イタズラするために中腰でいたから関節が疲れて、光くんの隣に座る。ソファはひんやりと冷たく、立ち上がりたくなくなってしまう。さて、と隣で寝ている光くんに向き直り、肩をとんとんと叩いた。




「光くん、部活の時間だよ」
「……、ん」
「…起きなきゃイタズラしちゃうぞー」





もうしてたけど。



と付け加えると、いきなり、胸をどんと押されて息が詰まった。…え、え?状況を理解できないまま、あっという間に反転する目の前の景色。天井が見えたと思ったら、すぐに光くんの顔が見えた。




あ、意地悪そうな顔してる。絶対なんか言われる。








「あれで悪戯した気になったんすか、名前先輩は」
「………もしかして、起きてたの?」
「起きない方がおかしいやろ」






吐き捨てるように言われて、光くんの顔が近付いてくる。
え、近付く意味がわかんな…、
















「…こう言うのを、悪戯っちゅうんやけど?」
「いっ、いま、口に…」
「先輩が俺のこと好きになるように、おまじないっすわ」




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