あっつ。


部屋にこもる熱気がひどく、目を覚まして悪態をつく。
開け放たれたカーテンから差し込む陽射しが暑くてしょうがない。
白い花をつけた木が窓枠に凭れているせいで若干日陰になっ ているものの、突き刺すような夏の太陽には勝てない。




今が何時か確認しようと目線だけで携帯を探すと、ちょうどライトで点滅していた。
マナーモードの場合に、電話を知らせる青の色。
久しぶりの休みだというのに、気だるい気持ちになる。


どうせ部長から、これから部活やとか、謙也さんから、遊ぼうとか。
深い溜息をついて携帯を手に取り、余った片手をベッドについて上半身を起こす。



かち、と音を鳴らしながら携帯を開いた。






『 着信 名前 』







「…もしもし」
「ひかるー」



即座に通話ボタンを押し耳に当てれば、やる気のなさそうな名前の声。
びびった。何やねん、普段ぜんぜん電 話してきぃへんくせに。
名前の声というだけで高鳴る心臓に腹が立って、携帯を握り締めた。



「今から光の家行ってもいい?」
「は?」
「なんか暇やねん」
「お前へんな関西弁使うな、イラつく」





ふへ、と気の抜けた笑い方をする名前。なんでこっちがキレてんのに暢気なんや。
声の向こうで蝉が鳴いてるのが聞こえた。
部屋の暑さが苛立ちを助長してるような気がして、ベッドから立ち上がって窓を開ける。






白い花が甘く、香った。








「……名前、」
「ごめん、もう来ちゃってた」



2階から見える玄関先に、名前が座っていた。
何してんねん、お前。
そう呟いて窓から離れ、電話 を繋ぎながら階段を下りる。
その乱暴な足音が名前にも聞こえているのか、「ひ、光…、あの」なんて上擦った声が聞こえた。


サンダルを履き玄関のドアに手をかけ、一瞬悩んで、それでも思いきり開けた。
名前は目を丸くしてから、申し訳無さそうに眉を寄せている。



その頬は赤く、瞳はすこし潤んでいて、首筋からは汗が垂れていた。



「いつから…」
「1時間前、くらい?」



こんな暑い日に何してんねん。




名前の言葉に思わず怒鳴りそうになるのを抑えて、腕を掴み引き寄せる。
熱い。体温の熱さと言うより、熱をもった身体だ。
何も言わずにそのまま腕を引いて、無理矢理家の中に入れた。








「何で 来たん」
「…えっと……」


華奢なミュールを脱いでフローリングをぺたぺたと歩く名前。
理由を言いにくそうな名前に深くは聞かず、とりあえずリビングに行き、冷蔵庫を開けて麦茶を取り出す。
氷を入れたコップに注いで、ソファの前のテーブルに置いた。
戸惑った様子の名前にソファに座れ、と目線だけで示すと、大人しく従う。



名前は立ったままの俺を見上げて、それから口を開いた。







「…昨日、光が」
「おん」
「女の先輩と一緒に帰ってたから…ちょっと気になって」
「……あー…あの人が勝手についてきただけや」
「そうなんだ…」



ごめん、と付け足して苦笑いする名前に、そんなことか、と笑った。
た だの嫉妬っつーことやろ、それ。






「んなことで1時間も待ってたんか」
「う、うん」
「アホ」


麦茶を飲んでいた名前が顔をあげて唇をとがらせる。
笑いそうになるのを喉奥なんとかで堪え、隣に座った。
肩から伝わる熱。熱中症ちゃうよな、と呟きつつ名前の方を向く。




その瞬間鼻腔を抜けていく、咽ぶような甘い匂い。



「…お前、外にいすぎて匂いついとる」
「えっ、なんの匂い?」
「花のやつ」



腕の匂いを嗅ぎながら、ああほんとだ、と名前が笑う。




なんて名前の花やったっけ。
そう考えながらエアコンのリモコンを手に取り、25度に設定した。
冷風が流れてくるのを感じ、ソファに頭をもたれる。






「甘い匂いだね。抱き締めたくなる匂い」
「…何やそれ」
「こう、ぎゅって」
「自分で自分を?寂しい奴やな」
「……協力してよー」



ふ、と鼻で笑って、名前を抱き寄せる。
窓の外を見つめると、純白の花弁がふわりと落ちていった。











「ひ、ひかる…やっぱ暑い…」
「うっさい」




(0621 // 桜花慶さまの企画、テニ誕−Four Seasons−の参加作品です。ありがとうございました!
お題先:MISCHIEVOUS様)

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