「誕生日おめでとう、蓮二」
「ああ、3分半遅れたな。化粧水でもつけていたのか」




電話口から聞こえた言葉に、げ、と顔を顰める。
化粧水を染み込ませたコットンを片手に持ちながら、6月4日の0時4分を迎えた。


去年の誕生日もこんな感じで、0時丁度にメールを送ろうと待機していれば、直前に真田からの電話。「こんな時間に」とうだうだと説教を受けて(つーか真田も起きてるじゃん)、結局メールを送信できたのは6月4日の1時過ぎだった。
返信にはお礼の言葉は一言もなく、ただ「このロスは弦一郎の電話のせいだな」と簡潔に書かれていた。

相変わらず、ひとの行動を予測してるというか…蓮二に泳がされてる、というか。




「去年の誕生日を思い出しているのだろう?」
「…うん。真田ってほんと空気読めてないな、と思って」




そう告げると蓮二は少し黙って、それから押し殺すように喉奥で笑う。
乾いたコットンをごみ箱に捨ててからベッドに向かい、思いきり飛び乗った。




「名前、スプリングが壊れるぞ」
「…なに、見えてる?」
「そんな訳ないだろう」
「蓮二って、サプライズできなさそう…」



げんなりとしながら呟く。(だってこいつ、人の行動全部読むし)


ああ、プレゼントを渡すのは一昨年でやめたんだった。
考えに考えて買ったプレゼントを渡す直前に、それを当てられてしまったから。
相手を喜ばせようと買った物を当てられてしまうのは、ある意味屈辱的で。
思い出すと溜息が出る。




「悔しかったら、俺を驚かせてみればいい」
「……蓮二を?」




無理。

一瞬で結論が出たものの、たしかに驚かせてみたい気持ちはある。
が、何をすれば驚くのかが全くわからない。
枕に顔を埋めて唸ると、わたしが悩むのも予測済みだったのか蓮二は余裕そうにくすりと笑った。


うわ、くやしい。


何か蓮二が驚くこと。びっくりすること。
ドッキリとか仕掛けて……どきどき…、……あ。









「…、あいしてる」





10秒ほど、無言が続いた。


いや、だって蓮二を驚かす言葉なんて思いつきそうにないし。
…驚かすどころか、引かせてしまったみたいだけど。(うわ…、最悪な失敗したなぁ)
無言になってしまってから、自分が第一声をあげるのは意外と難しい。
というか、ただ単に気まずいだけ。




「……蓮二?聞いてた?」
「…ふむ、少し予想外だった」
「嘘、びっくりした?やった!」
「吃驚と言うよりは……そうだな、名前、」









「俺もお前を愛してる」
「え…っ」
「心拍数が上がっただろう。それと同じだ」
「(…結局、驚いてるのはわたしな気が…)」



(0604 柳さん誕生日おめでとう!)


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