「久しぶりじゃの」。って、話しかけてきたのは隣のクラスの仁王くん。
渡り廊下にいたわたしを見つけ、声をかけてくれた。
仁王くんとは、一年生のときに同じクラスでそれなりに仲が良かった。
でも、今はそんなに話さない。
付き合ってもいない、ただの友達だったから当たり前だけれど。


仁王くんはテニス部に所属していて、いつも女の子に囲まれている。
その女の子達も邪険に扱うぐらいだから、人といるのが嫌いなのかな、なんて思っていた。
とても目立つ容姿をしているし、顔もかっこいい。正直、ついつい目で追ってしまう。
もしかしたら、気になっているのかもしれない。




独特の言葉で話す仁王くんは相変わらずで、でも一年生の頃より大人っぽくなっていた。




「仁王くん、かっこよくなったね」
「ん?中1のときは格好良くなかったんか」
「そう言うことじゃなくて!」



不満そうに唇を尖らす様子を見て慌てて首を振ると、
仁王くんは「冗談じゃ」と言って喉奥でカラカラと笑う。
……もしかしなくても、遊ばれてる…!!



「名前と話しとると、楽じゃな」
「…楽?」



何度も瞬きを繰り返すわたしを見て、仁王くんは優しく微笑んだ。


楽って、どういう意味?
他の女の子達と違って、意識しなくてもいいから楽ってこと?
……恋愛対象外ってことなのかな。(それってなんか、ショック、かも)




「…名前」
「! ご、ごめん、考え事してて」
「ほー、俺と一緒に居るのに何考えてたん?」




意地悪い笑みを浮かべた仁王くんの表情にどきりとしてしまい、顔が熱くなる。
言い訳を考える頭はちっとも回らない。それどころか指で弄っていたノートに挟んでいた
プリントが滑り落ちて、わざわざ仁王くんに拾ってもらった。
情けない。…と、言うか、からかわれてる気がする。



「当ててやろ」
「えっ?」
「俺のこと、考えてたんじゃなか?」
「か、考えてない」



図星。


唇に手を当てて、わざとらしく自分を指差す仁王くんが、にくらしい。
まさかそれを肯定するわけにもいかず、大きく首を振ればまたけらけらと笑い出す。
普段見ていた、クールな仁王くんのイメージとはぜんぜん違っている。
そのせいで、さっきから心臓が痛い。(笑った顔もかっこいいな…)





「目、閉じんしゃい」



仁王くんが左手を握り、後ろに隠しながらそう告げる。
その言葉がどうしても他の意味に聞こえて、頬が熱くなった。


でも、どーせ仁王くんのことだから、左手に何か仕込んでる、とか…。
虫とかだったらどうしよう。怖すぎる。



「な、なんで?」
「…いーから」




正直こわい。
けど、期待してしまうのが乙女心なのかもしれない。(…、よし!)


決心してぎゅっと目を瞑る。
周りが見えなくなることで、部活をしてる人の声や風の音がはっきり聞こえた。
仁王くんの指先がわたしの頬を掠めた気がして、思わず肩を揺らす。




30秒ぐらい、そのままの態勢。不思議に思って、瞳を閉じたまま小首を傾げる。
さすがに肩が凝りそうなんだけど…。




「…えっと、仁王くん…?」
「名前」




名前を呼ばれて返事をしようと唇を開けば、そこに、なにかが触れる感覚。






え、



えええ?




「っに、にお、くん」
「誘っとるんかと思った」


わたしが落としてしまったノートを拾う仁王くんは、
唇の右端を上げて楽しそうに笑っていた。









「かっ、からかわないで、よ…!」
「本気なんじゃけど、のう?」



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