夏のぬるい風が、頬を優しく撫でた。



(もう、それなりに暑いわ)





今日は七月七日。一般的に、七夕っちゅう話や。言うても、まだ日にち変わったばっかやけど。
7月初めにしてはむっとした湿度に暑い外気。
携帯を手持ち無沙汰に開閉する。ぱかぱか。持つ手が汗で滑って、気持ち悪い。

そんな夜中に、何で俺がランニング姿でうろついているかっちゅうと…、
事の発端は昨日の夕方。


部室でくたくたになっとった俺に、白石がふと「謙也、名前ちゃんと星とか見に行かへんの?」と聞いたのが最初。
何で星なんか見に行くねん、と返せば思いっきり眉を潜めて、大げさに溜息をつく白石。(正直イラっとした)
「一年に一度の七夕にロマンチックなことをしてくれん彼氏なんて、俺は嫌やな」と言われ
小春がそれにうんうんと頷き、財前にも「謙也さん、ないっすわ」と言われる始末。

そんなん知らんわ!とは言ったものの、なんや名前の悲しそうな顔が思い浮かんで、
居ても経ってもいられへんかった。





ぺった、ぺった、と淡色のビーチサンダルが音を鳴らす。
警察に補導されるかもなぁ、と思ったんやけど、前に見つかったときは
「誰かに見つかったら危ないでー」と言われたぐらいや。
自分がその誰かちゃうんかい、なんて名前と一緒に笑っとったな。

それに、俺と名前の家はそんな離れてへんし、近くに丁度ええ公園があるからそんな遠くに行かんし。
まあ、大丈夫やろ!








名前の携帯に電話をかける。
1コール、2コール……、もう寝てしまったやろか。


もし起きていれば、きっと今頃携帯のサブ画面には俺の文字が出とるはず。
こんな夜中にどうしたのかと思われるやろな。
首を傾げながら手に取り通話ボタンを押す名前の姿が思い浮かんで、ちょっと笑ってしもた。
夜中で、しかも外におるのに一人で笑うって……俺、完全に不審者やん。誰もおらんで良かったわ。



「もしもし」
「あ、 …もしもし、名前?」




アカン、どもった。
わたし以外に誰がとるの?と笑う名前の声。
かけてからそれなりに経っとったから、まさか出るとは思わんかった。あと1コールで切ろう思てたしな。

思わず名前かと確認してしまった自分が恥ずかしい。
部屋で流しとるのか、ゆったりとした音楽が電話口から聴こえた。



「今何しとったん」
「音楽聴いてたー。謙也は?」
「俺、外におる」
「えっ?…何で?」
「べ、つにええやろ。…もしかして寝るとこやった?」



のんびりとした喋り方に、眠いんかと不安になる。
これで名前が寝る言うたら、俺どないしよ。
今からコンビニでアイスでも買って、帰ろか。(なんちゅー寂しい七夕やねん…)





「まだ寝ないよ。どうしたの?」
「(――よっしゃ!)…いや、えぇと、な」
「うん」



ぼそぼそと歯切れ悪く言う俺。かっこわる。






「ほ、星!今日綺麗やから、見に行かん?」


「………星?」





意外そうな声でそう聞き返されて、おん、と小さく答える。
名前の家に向かう足取りがだんだん重くなった。
……もしかして、これアカンのちゃう?


喉がカラカラでちょっと苦しい、そして沈黙が耳に痛い。
誰や、星見に行こうって誘え言うたん。
(白石か…!?いや、あいつ誘えなんて言うてないわ。俺の単独行動や)






「あ、今日七夕だから…ってこと?」
「おん、……どや?」

「うん!いいよ、見に行きたい。こっそり出てくるね」
「! ほな、玄関の前で待っとるわ」




名前がそう言うのが聞こえると、思わずほっとする。
頬が勝手に緩んでしまって、なんちゅうか…めっちゃ恥ずかしい。




名前の家の玄関前までつくと、見上げた窓からカーテンが動いとるのが見えた。
暑かったのか窓が開いとる。無用心や。女の子の部屋やっちゅうのに。




「名前!窓、ちゃんと閉めぇや」
「えっ?あ。開けっ放しだった」




携帯に向かってそう言うと、窓を閉める名前。
目が合ってくすくすと笑う。



…… 幸せ、や。













(来年もこうして 一緒に居れたらええな)

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