「ふあー……」





欠伸を噛み殺しながらゆっくりと歩いてみる。久々や、歩いて登校するなんて。(いつも走っとるしな、俺)
なんとなく歩きたい気分で、普段の俺からしたら信じられんくらいトロく登校していた。
右手にはさっき自販機で買ったオレンジジュース。果実のパルプ入り、やって。
それを開けて一口飲み、なんや今日は穏やかや、とすこし微笑んでみた。誰かに見られとったらどうしよ。







「あ!謙也おはよー」
「名前…!おはようさん!」
「走ってないの珍しいね」
「そ、そうか?」



名前が俺の肩をとんと軽く叩いて頷き、「珍しいよー」と笑う。
なんちゅうか、可愛い奴やな。本人には絶対言わんけど!
どきどきと高鳴る鼓動を抑えるように小さく息をつき、名前の横顔を盗み見る。



さらさらの前髪に長い睫毛(あ、くるんってなっとる)、すこしだけ朱に染まった頬。薄く色づいた唇。
……あかん。
直視できなくて目を逸らしながら、それでも見ていたくて目を向けた。
潤んだ瞳が、いつにも増して緊張しているように見えて首を傾げた。悩んでいるようにも見える。
それに、苺の匂いがする気が……なんでやろ。





「なあ名前、今日なんかあるん?」
「え…?!」

「なんやいつもの名前ちゃうなー思って…」
「……謙也、今日が何日かわかる?」
「3月17日やろ!」


それぐらい知ってんで。
むっとしてすぐ言い返すと、名前は絶句して口もきけないのか黙ってしまった。
驚いたような表情がかわい…、いや、ちゃう。関係あらへん。(なんやねん!3月17日に何があんねん)

抜き打ち検査、とか?それやったら普段の格好より地味にするやろうし。
ミスコン?や、そんなん知らんもんなー。しかも出るとか聞いてへんし、もしあったとしても出させへん!


考えてはわからなくなり、答えを聞こうと名前の方を見つめた。
名前は俯きながらすこし震えていて、その表情は読み取れん。……え、な、泣いとる…?




「名前!!」



慌てて両肩を掴み、真正面からぐっと顔を見遣る。
涙は出ていないようでほっと息をついた。
せや、聞かんとわからへんしちゃんと答え聞かんと…!正直怖いけど、しゃあないわ!





「き、聞きたいん、やけど」
「なに」
「……きょ、今日……何の日、やったっけ」



その瞬間、名前がぎろりと俺を睨む。ちょ、あかん!!めっちゃ怖い!!!








「……謙也の誕生日祝おうと思って準備してきたのに…!お洒落も、がんばったのに!本人が忘れてるなんて、っ・……ばか!!」









ばん!
と思いきり叩かれて、右手から缶が離れた。(あ、やば、)












(そや、今日は俺の誕生日やんか!何で忘れてたんや俺…!ただのアホやろ!!…ちゅうか、名前が祝おうとしてくれてたんは嬉しいな…!俺んためにお洒落してくるとか、めっちゃ健気やん。やばい、惚れ直すわ…可愛すぎるやろ名前!)


「……謙也…」
「白石っ!!みみみ見てたん?!」
「…そこでニヤニヤしとらんと、はよ名前ちゃんに謝った方がええで。
あと、股にオレンジジュース零れとるからな、自分」
「あっ」



(0331 かなり遅れたけど、謙也誕生日おめでとう!)

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