クラスが、と言うか学校中が騒がしい。
朝から妙にお洒落した友達や後輩が溢れていて、みんな手に可愛い箱を持っていたり、色とりどりの袋を提げている。
…何かあったのかな? うーんと小さく唸りながら考えてみるけど、全く思いつかない。 雛祭り…はもう終わったし、ホワイトデーにはまだ早いからなぁ。まあ覚えてないぐらいだから、わたしには関係ないか。 ポジティブにそう結論をつけて考えるのをやめると、教室のドアを開けた。
「はよっ」 「ブン太おはよ」 「おー名前、おはよ」 「仁王君おはよー」
クラスに入って朝の挨拶。ふたりともどことなく顔がにやついている。 友達にもおはようと声をかければ「あれ?用意してないの?」と挨拶より先にそう言われて。な、なにが? それに首を傾げ、問い詰めたくなる気持ちを抑えてとりあえず席についた。
「随分身軽そうじゃのう」 「小さいもん用意してきたのかよ?」 「え?なにが?」
そう聞き返すとふたりとも目を丸くして、それから同時に「「うわぁ」」と呟いた。 身軽?だって何もないし、用意ってなにを…?
「…今日、幸村の誕生日ぜよ」 「よりによって幸村君の忘れるとか…名前カワイソー」
あ。
「どうしよううう……」
放課後。机に頬をつけてそう呟くと、仁王君とブン太は顔を見合わせて笑う。 こいつら…他人事だとおもって…!!(完全に他人事だけど)
3月5日。テニス部部長、幸村精市くんの誕生日。 朝も休み時間も昼休みも、どうにか幸村くんと顔を合わせずに過ごすことができた。 その間にプレゼントを考えてはみたけれど、ほんとに何も用意してこなかったから思いつくはずもなく。 とうとう放課後になってしまい、テニス部のマネージャーであるわたしが部活を無断で休むわけにもいかず。 まさに打つ手なし。脳裏に幸村くんの笑顔が焼きついて離れない。
「もしかしたら許してくれるかもしんねーじゃん!」 「それ、どれくらいの確立なのかな…」 「赤也が英語で100点とるくらいじゃなか?」 「0%ってことだよね」
はああ、と長く溜息をつく。 何でよりにもよって、幸村くんのを忘れちゃったんだろう…。 赤也とかも忘れてないかなあ。ふたりなら怖くない気がしてきた。(メールしてみよう!) メールを作成しつつそんなことを思いながらうだうだとしていれば、ブン太がやべぇ、と呟いた。
「俺まで部活遅れる!悪ぃな、先行くわ」 「あーブンちゃん、俺も行くナリ」 「は、薄情者…!」
そう言ってふたりは重そうなエナメルとラケットを持って、慌ただしく教室から出て行ってしまった。 思わず泣きそうになっていると、軽快な音楽と一緒にメール受信。 送信者名は…赤也だ!もう赤也しかいないよ、たすけて!
『マジっすか!ドンマイです(^_^) 俺はちゃんと持ってきたっす〜』
余裕そうな顔文字が、むかつく…!
もうどうしようもない。今から買ってくるにしても、部活に遅れたらどっちにしろ怒られる。しかも真田くんにも怒られそうだし。 正直に言うしかないか…。うん、幸村くんだってそんな冷たいひとじゃないし許してくれるよね。 よし!と気合いをいれてから、鞄を手に取って教室を出た。
「だからその…誕生日って忘れてて、ね」 「へえ」 「…プレゼント用意してないですごめんなさい!」
つめたい。視線が、目が、雰囲気が、オーラが…ぜんぶ冷たい!! 部活終わりの部室で打ち明けると、幸村くんはにっこりと笑った。(目が笑ってないけど!) ちなみに他の部員は全員帰ってしまった。たぶん勘付いたんだろうなぁ…。
「忘れてたこと自体は腹が立つけど、用意は要らないよ」 「えっ!ほ、ほんと?」
すごい怖い顔で腹が立つって真正面から言われたけど(こわすぎる)、用意してなかったことには怒ってない、みたい…? よかった…!幸村くんもやっぱり人の子だね!ほっと胸を撫で下ろして詰めていた息を吐く。 この短時間ですっかり肩が凝ってしまった。 幸村くんがにこりと笑いかけたので、同じようににへらと笑ってみせる。
「じゃあ3つお願いを聞いてもらおうかな」
「………うん?」 「俺へのプレゼントはそれでいいから」 「ま、待って。え?プレゼント要らないんじゃ、」 「俺は用意が要らないって言っただけだよね。名前、ちゃんと聞いてなかったの?」 「、え…?あれ?」
目を細めて楽しげに微笑む幸村くん。 この展開、お願い聞いてあげなきゃだめみたいです。(い、いやだあああ!)
「とりあえず椅子になってよ」 「いきなりレベル高すぎ…!」
(0306 遅れてしまった! 幸村さま誕生日おめでとうございます!)
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