26

「……で?」
「ん?」

なんでこんな事になった。

仁王に連れられた私は近所のスーパーまで来ていた。
買い物時を過ぎある程度人のいなくなった店内にはスーツ姿の男性客や、夕飯の準備が遅れたのか焦って買い物をする主婦らしき女性の姿がちらほらと見られる。
私はと言うと、買い物カートを押しながら次々と食材をカゴに放り込む仁王の後について歩いていた。

「いやさ、なんで私ら二人でスーパーなんかにいる訳?」
「なんでって、食材調達」
「ん〜〜〜」

そう言う事ではなく。

「おまん、アレルギーとかあるか?」
「いやないけど…」
「よしよし」

言いつつ卵をカゴへ。
え、つまり何、買い物付き合ってやるから料理ぐらいしろ女の片鱗だろ的な?
でも料理とか出来ないよ?あ、黒ならできるかな。あいつなんでもそつなくこなしそうだし。

「この後おまんの家な」
「……へっ?」
「俺の料理、食わしてやるき」

ニヤリと口元を歪めた顔をこちらに向けた仁王は、いつもの謎の言葉をピヨッとこぼして機嫌良さげにコーラのペットボトルをカゴへと入れた。
………んん?

「え!何、仁王が晩飯作ってくれんの?」
「そゆ事…あ、」

あ、と口を開けたまま、しまったといった表情で固まる仁王。なんだなんだ、どうした。

「……すまん、金貸してくれんか。手持ちなかったんじゃった」

今まで見た事もないような申し訳なさそうな顔で両手を合わせる彼に驚きを隠せなかった。
君もそんな顔できるのね。

「んだそんな事か払う払う。金ならある任せとけぃ!」
「……なんじゃ、お前さん家お金持ちか?」
「んー…まあ、少し余裕があるってくらいだよ」

なんせそこだけはがっぽりって希望出してましたからね!

「…ふーん…?」

途端に訝しげな顔を浮かべる仁王。
なんでや?
立海に通うような生徒ならば少しばかり家庭が裕福な者も少なくないだろう。

「え、何?」
「…いや、別に」
「なんだよ気になる」

こういう反応をされると原因を突き止めるまでは引き下がる事のできない私だ。
目を反らす仁王の顔をジーっと見つめ続きを促した。

「…あー、そんな裕福なのにいつもコンビニってのは、その……親御さんは飯作ってくれんのか?」
「…ああ、なんだそういう事」

なるほど仁王が言葉を濁す訳だ。確かに、いくら共に行動する事が増えたといえど、そういう家庭事情の話にぐいぐい突っ込む事はなかなかに難しい。
あらかた、親子関係が複雑な家庭なのかもと気を使ってくれたのだろう。

「あ…すまん、やっぱ余計な事じゃった」
「いや別に大した話でもないよ。うち一人暮らしだからさ、料理とかできないし、必然的にデリバリーとかコンビニになっちゃうだけ」
「一人暮らし!?」

そう驚く仁王に驚き、つい、手に持っていたチョコパイを床に落とす。

「う、うん」
「そ…そーか…」

やべ、もっと考え込ませちゃったかな?



家に他人を招くのは初めてだ。
特に汚くしている訳ではないが、かといっていつも整頓されてる訳でもない部屋を見られるのは少し緊張する。
念のため閉めて出てきた玄関の鍵を開け、一つ小さく息をつき扉を引いたと同時に、ふと思い出した。
そう言えば、黒の事なんて説明しよう?

「お帰り〜…て、ありゃ」

おっと、思い出したそばから。

「え…?」

黒を見てぽかんと固まる仁王。
なんでこういう時に限って人型な訳?
まあ猫の姿でいるように連絡をしなかった自分も悪いのだが。

「まさか…彼「違う」」

目をまん丸くさせ黒を指差す仁王の言葉が終わる前に否定の言葉をぶつける。
彼…?いやいやいや勘弁してくれ本当いやマジで冗談でもヤメテ。

「…俺はただの保護者だよ」
「保護者?」
「まあたまに顔出す兄貴、みたいなもんかなー。とりあえず上がったら!その袋見るに飯作りに来てくれたんでしょ?」
「あ、は、はい。んじゃお邪魔します…」

行儀よく靴を揃えた仁王をキッチンまで案内する。
一人暮らしにしては広すぎる家に驚きながらも、少しばかりの羨望を視線に滲ませ辺りを見渡す仁王。

「何、一人暮らしに憧れてんの?」
「んー、まあな。気楽そうだし、何しても怒る奴もおらんし」
「まあね〜。ここ、キッチン」

そうか。
中学生といえばちょうど親や家族を鬱陶しく感じるお年頃。反抗期ってやつだ。
自由気ままな一人暮らしに憧れがあるのも頷ける。
特にこいつはマイペース中のマイペース人間だし、他の同世代の奴よりも"家"という檻が窮屈に感じるのだろう。

「で、何つくんの?」
「…いや、何つくんのってか、これ」
「ん?」
「フライパンと包丁1つずつしかないってどういう事じゃ!」

仁王はキッチンのありとあらゆる棚を開けてまわり、最終的に諦めたのか苦笑いを浮かべながら買ってきた食材を開け始めた。

「いやだって使わないし」
「…はぁ〜…」
「いやぁ…ま、頼んだ!」




それから約3、40分程。

「ふおおぉ〜!」
「……すげ」

テーブルに並んだ湯気のあがる料理達。
急ぎでコンビニまで買いに行った紙皿に盛ってあるのがもったいないくらいに、美味しそうだ。

「こりゃヤバい」
「ヤバいね」
「大変な事態だ」
「大変だね」
「え、嫌いなもん入っとる?」

しまったといった顔で私と黒の顔を交互に見る仁王。

「こんな美味そうなの出されちゃ、もうコンビニ食の生活に戻れなくなっちゃうべや」
「…えぇ」

温かい手料理なんていつぶりだろうか。
ゆらゆらと立ち上る湯気をぼーっとながめながら思い出す。
もといた世界ですら、まともな手料理を食べた記憶なんて数えられる程度だった。
昼も夜も働きに出る母親の背を見送る、まだ幼い自分。
ただ食って寝て。幼いながらにもたまには家事なんかをしてみたりして。そんでありがとう、良い子だねなんて褒められて、そんな事がすっごく嬉かったりして。

そんな現実に慣れ一人で夜遊びをし始めた頃、総長や皆と出会った。

「…凄く、温かいわ」
「…?。まあ作りたてだからな」
「フフッ、だね」
「だったら温かいうちに早く食べようぜ!」
「はいはい」

普段よりも一人増えた食卓。それも、温かい手料理と一緒にだ。
生きていれば、こんな事もあるのだなぁ。

「頂きます」
「いっただきま〜す」
「め、召し上がれ!」





温もり
「また作りにこいよ」
「えっ…いいんか?」
「俺も大歓迎〜!」









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5・7・5書いたとこで文章は浮かばんよ(゚ω゚)


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