24


あれから我々は少しの間生徒会室で時間を潰した。そして日が沈みしばらく経った頃、五人に増えた一行は美術室へと向かっていた。

「最後の七不思議は…『美術室に現れる女の霊』」
「女の…」
「霊…」

心霊ものではありがちの女の霊というだけありちょっぴり期待度が上がる。
今までのがアレなだけにまたがっかりしたくないという思いもあるが、やはり感情というのは抑えられないものだ。ワクワクをなるべく周りに悟られないように気持ちを落ち着かせながら歩を進めた。



しばらく歩き、ある突き当たりにたどり着いた。どうやら到着したようだ。

「ここが美術室です。……開けますよ」
「ん」

そう答えると、日吉は勢いよく扉を横に引いた。

「っ!?」

ガラガラガラと音をたててスライドした扉の向こうには、大きなキャンバスの前でパレットと筆を構えた1人の女子生徒がいた。
幽霊ではなく、普通に氷帝の制服を着てエプロンを着け、驚いた様子でこちらを見ている生身の人間だ。

「せ、生徒会長!?…それに日吉先輩…え!?」
「…美術部員か。おい、もう遅い。切りのいい所で終わらせろ」
「あっ、は…はい、すみません!」

女子生徒はわたわたと慌てた様子で片付けを始めたが、いきなり現れた我々(特に跡部)に戸惑ってもたついているようだ。

「(邪魔してごめんよ美術部員さん)」

心の中で彼女に謝りつつ入り口から室内を見渡す。が、とくにおかしな事は起きていないようだ。

「…空振り、か」
「どうやらそうみたいだね」
「結局何も無いだーね」

肩を落とす我々を尻目に、跡部は行くぞと指を鳴らして元来た道を振り返った。
先頭きって歩き出す彼に日吉がジト目で一睨みしてから続き、それにならって我々三人も苦笑いを浮かべながら後を追った。

「やっぱ七不思議は全部嘘っぱちかぁ」
「特に信じてた訳じゃないけど嘘だって分かってからがっかりしちゃうのってなんでだろ」
「そりゃあ、何か起こるかもって期待がちょびっとあったからだーね」

とくになかったなあとこのまま解散になる雰囲気を出しながらとぼとぼと歩く。
すると、前を歩いていた跡部が急にピタリと立ち止まった。

「跡部さん、どうしたんですか?」
「……あの生徒、見覚えがない」
「え?」

訝しげな顔をしながら顎に手を添える跡部はまさに絵になる様子だ。
……というか、え?

「…いやいや、このマンモス校なら知らない人の1人や2人いてもおかしくないっしょ普通に」
「俺様は中等部全生徒の顔を記憶している。だが今の女子生徒の顔を校内で見た事がない」
「……いやまさか」
「あ、跡部が忘れてるだけだーねきっと!」

一瞬サーッと血の気が引く一同。あの跡部景吾だ、全生徒の顔を覚えるくらいやってのけそうだ…と、皆考えたのだろう。

とりあえず急いで美術室へ戻る事に。
小走りで道を戻りながら、予想外の面白い展開にニヤケそうになる顔を押さえた。



美術室に到着すると、先頭を歩いていた跡部が真っ先に扉に手をかけた。

「おい!」

そう言いながら扉を開いた跡部は、室内をグルリと見渡し目を見開いた。

「…え?」
「…嘘」

すると、そこにあるはずだった女子生徒の姿も美術活動に励んでいた形跡も、跡形もなく消失していた。

「…どういう事だ」
「…もう、帰ったんじゃないかな」
「でもあれから5分も経ってませんよ、こんなにすぐに片付けが終わりますか?」
「………」
「………」

一同沈黙。
チラチラと全員の顔を一瞥していくと、実に個性豊かだ。
眉間にシワを寄せる跡部、うっすらと笑みを浮かべる日吉、これといって無表情な淳、目を見開き口は半開きな柳沢。

「ぶふっ」
「!?」
「いや、ごめ何でもない」

思わず柳沢の顔で吹き出し驚かせてしまった。
ビクッとこちらを向いた柳沢に軽く謝り真顔を作る。

「とりあえずお前ら、今日はもう遅いし帰れ」

クルリと振り向いた跡部は携帯でメールを打つ仕草をしながらそう言った。

「……ま、ここにいてももうなんもなさげだしなー」
「…だね」
「じゃ、今日はこれで解散と言う事で」
「だーね」
「例の女子生徒については俺様の方で調べる」
「あー…まあそうなるか」
「真相が分かったら俺から皆さんに連絡します」

そうして結局、今日最大の謎を残したまま第1回目のオフ会は終了した。



校門を出て各方向に去っていく彼らの姿を見送りながら、まあこんなオフ会もいいか、なんて適当な考えに結論を落ち着かせ、帰路についたのだった。

「日吉からの真相メールが待ち遠しいな」





楽しみがまた1つ
こうやって人生の楽しみを作っていけるって、幸せな




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ひいいいいい。
いつぶりの更新よこれ…。マジ自分もっとしっかりorz



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