22

「日曜なのに結構人がいるんだーね」
「そうだーね」
「?」
「(やべうつった)」

時刻は夕刻。ちょうど"ショー"とやらが始まる時間だろう。
学園の生徒に目を向けられながらもなんとか中等部校舎まできた我々は、日吉が持っていた"氷帝学園七不思議・解"と表紙に書いてあるメモ帳にそい、七不思議第1番が起こると言われる保健室へと向かっていた。

「まあ氷帝は部活やら委員会活動やらと忙しい人が多いですからね」
「テニス部は?」
「日曜日は休みです」
「はーん!流石氷帝は余裕だーね!」
「いや柳沢、それ言ったらウチらも休みだから…」
「あ」
「…。さあ、ここが保健室です」

日吉は柳沢の諸刃の嫌みを華麗にスルーし、日曜日のため閉まっていた保健室の鍵を開け、扉を引いた。

「第1番は保健室、夕焼けの光の中踊る影」

夕焼けの光の中踊る影。
日吉の言った言葉を心の中で反復する。
噂の通り夕焼けの光が当たっている窓際へと視線を向けるが、特に何もおかしなところは無いようだった。

「な、なんだやっぱりただの噂だーね…?まったく、こんな事だと思ってただーね!」

柳沢はそんな強がりをいいながらもちゃっかりと淳の背中に隠れているが、確かにただの噂だったようで少しばかり落ち込んだ。

「まあ次もありますから……ん?」
「え?」
「あっ」
「お」

保健室を後にしようとしたその時だった。
何かに気づいたような声をあげた日吉に習い同じ方向を向いてみれば、閉じられたカーテンに、確かに影が映っていた。さっきまではなかった筈だが今現れたようだ。
閉まっていた窓も何故か開けられているためカーテンは風にはためいており、確かに頑張れば下手な踊りを踊っているように見えないでもない。

「で、でたああむぐっ!」
「しっ!柳沢静かに」
「…どうする?」
「そりゃ正体を暴かないと」

日吉はニヤリと笑みを浮かべると、切れ長なその目をキラキラと輝かせ影の方へと向かっていった。

「……」

シャッ。
無言でカーテンを捲った日吉はしばし静止すると、ゆっくりとカーテンを戻し、そのままこちらに戻ってきてしまった。

「えっ、なんなんだーね!?何がいたんだーね日吉!?」
「あの、いやその……すみません」
「はあ?」

歯切れ悪くごにょごにょと誤魔化す日吉に疑問を感じながら、同じようにカーテンへと向かいそっと中を覗いてみる。

「わっまた」
「きゃっ、なんなんですかもう…っ!」
「…」

そこにいたのは氷帝の制服を来た男女2名。
二人は少し慌てながら保健室の窓から外へ出ようとしていたようで、丁度男子生徒が女子生徒に手を貸していたところだった。

「あ、すんません」

とりあえず、事情把握。

二人が出ていった窓の鍵とカーテンをきっちりと締め、保健室の出入口でわちゃわちゃしている三人のもとへ戻った。

「なんだーね、何がいたんだーね!?」
「クスクス、気になるなあ。教えてよ怜」
「あー…つまりだね、」

恐らくこの保健室はカップルのイチャイチャスポットだったのだろう。
日曜日保健室は常時解放されていないので人目に付きにくい。
それに気づいたカップルが隙を見てあの窓の鍵だけ事前に開けておいたのか、なんらかの方法によって鍵開けに成功したのか。それからあの場所を使って逢い引きしていた、というところか。
う〜ん我ながら名推理。
てか、日曜日なんだし外にデートでも行けよな。なんで学校?

「はぁ〜、なんだそんな事だったんだーね…」
「七不思議でもなんでもなかった訳だ」
「残念でした」

それから我々は着々と七不思議を解明していった。
第2番、"音楽準備室から聞こえる謎の音"は、昔ながらの玩具の愛好家達が部を発足できずに勝手に集まって遊んでいた、けん玉やめんこ等の音である事が判明したし、第3番"暗い理科室に浮かぶ人魂"も、単なる最近発足したオカルト研究部による部室の雰囲気作りの一環だった。続く4番5番も同じく、つまらない出来事が噂に噂を呼び広がったただの勘違いだったのだ。

「……はぁ〜あ…」
「結局どれも単なる噂か…」

外は夕暮れからもう少し日も落ち、薄暗くなってきている。
我々は落胆しながら次の場所へと歩き始め、既に第6番が起こると言われている生徒会室前へと来ていた。

「第6番、生徒会室から聞こえるラップ音」
「次は本物だーね?」
「さあ?」

生徒会室から聞こえるラップ音。
他の教室よりも少しだけ豪華に見える"生徒会室"の教室名が書かれたプレートを見上げ、心の中で繰り返した。
ラップ現象とは、何もないはずの空間から何らかの音が発生したりする事で、ラップ音とはその発生した音の事だ。ラップ音は心霊現象等でよく聞く話だが、その多くは木造建築の軋む音であったりネズミが屋根裏を駆ける音であると説明されている。つまり、霊的なモノによる現象な訳がねーだろと、科学者達は言いたい訳だ。
まあかく言う私も霊を信じている訳ではない。霊感とかもないし。
まあただ単に、不思議な事が好きってだけ。

「ラップ音かぁ……どう、なんか聞こえる?」

扉に耳を寄せている日吉に話かける。

「………」

暫く黙ったままだった日吉は私と視線を合わせると、小さく頷いた。

「……本当だ」

同じく扉に耳を当てていた淳も少しばかり目を見開く。

「確かに何か鳴ってるよ。パチッパチンッて」
「ど、どどどどれっ」

柳沢は淳に、私は日吉に場所を譲ってもらい、一緒に扉に耳を寄せた。

パチッ、パチンッ。
パチッ、パチンッ。

「………うおお、マジだ」
「…これは正体を突き止めなくては」

日吉は再び目を輝かせそう言うと、扉のドアノブに手をかけた。
そして、開けますよ、と小さく呟くとドアノブを回しおもいっきり扉を押した。

「……」
「……」
「……」
「……は?」

ほんのりと漂うコーヒーの香り。
そこにはかの氷帝のキング、跡部景吾がいた。

「あーん?なんだお前らは」






帝王降臨
(だな、題するならば)





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あ、あれぇ〜…?タイムトラベルかなぁ?もう2014年だとぉ?
た、確か前回更新したのは………うっ頭が…っ!
…………すみません嘘です。半年も更新してませんでしたごめんなさい。



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