「あー!財前がラブレター貰っとる!」
「人のもん勝手に見るとか最低ですね」


部活が終わった後の汗臭い部室で着替えとる時に聞こえた謙也先輩の叫び声。
床に置いた俺のバッグを見とるかと思ったらその中に入っている手紙を取り出す。
俺にプライバシーは無いんか、と毒を吐きながらユニフォームを脱ぐ。


「なぁなぁ、中身見てもええ?」
「謙也、さすがにそれは」
「ええですよ」


白石部長の声を遮って答えれば、謙也先輩は嬉しそうに声を上げた。
どうせ捨てるつもりやったし、なんやったら謙也先輩にあげてもええぐらいやし。
ニタニタしながら遠慮無しにビリビリと封筒を開ける謙也先輩も謙也先輩や。


「なー、財前」
「なんスか」
「苗字名前ってどんな子?可愛い?」
「……は?」


手紙を見た謙也先輩が一番最初に発した単語に、思わず着替えていた手が止まる。
持っていたシャツを床に放り投げて、謙也先輩からその手紙を奪い取る。
急になんやねん!と謙也先輩は怒鳴るけどそんなの関係ない。


「っ、ちょっと俺行ってきます!」


奪い取った手紙を片手に部室を取り出す。
突然の行動に先輩等の声が背中にぶつかるけど、今はそんなの関係ない。
はよ、行かな。







試合の時にすらこんな必死になったことないと思う。
部室から手紙に書いてあった場所は遠くて、息が切れ額に汗が流れる。
そんな中辿り着いた目的の場所の木の下には、小さな体をさらに小さく丸めている女子生徒がおった。
誰かなんて聞かんでも分かっとる。
高まる心臓の音。さらに乱れる呼吸。ゆっくりと彼女の元へ向かい目の前に辿り着いた時、彼女が俺を見上げた。


「…あ、」


やっぱり苗字さんやった。
大きな瞳からは涙が溢れ、うさぎのように真っ赤に染まっとった。肌が白いせいかそれがやけに映え、痛々しく感じられた。
俺は苗字さんの前に同じようにしゃがみ込み、目線を合わせる。
小さな口が何か言葉を発しようとしとるみたいやけど、上手く出てこんみたいやった。


「…ごめん」
「え、?」


はっきりとした返事が返ってくる前に苗字さんを思い切り抱きしめた。
触れた体はひんやりと冷たく、俺はその身体を暖めるためにさらに強く抱きしめる。


「…手紙、今読んだ」
「手紙…」
「おん。そんで遅くなった。ほんまにごめん」
「、財前くん、あの、」
「俺も、好きや」


そう言ったと同時に耳元に直で苗字さんが息を呑む音が聞こえた。
中学生の時からずっとずっと大好きでたまらんかった人と、気持ちが繋がるのがこんなにも嬉しいことなんて誰も教えてくれんかった。


「めっちゃ大切にするから」


それは心の底からほんまに出た言葉。
それを噛み締めるように、俺はまた苗字さんを強く抱きしめた。

20120614