とくとくとく

普段より早く脈を打つ心臓を落ち着かせるために深呼吸をするけれど、それはまるで反発するようにさらに鼓動が早くなった。
結局の所、頭の中でどんなに落ち着け冷静になれと唱えても、心がざわめいているから意味が無いのだ。



放課後。誰もいない校内。
外からは運動部の元気な声が聞こえてくる。そこに彼の声は混ざっていないけれど、少し胸がときめくだなんて、私は物凄く単純な人間なのだ。

目の前には彼の靴箱。胸元で抱えるようにして強く握りしめているのは、二ヶ月程前から何度も何度も書き直して、ようやくの思いで完成させたラブレター。
本当なら直接、彼に思いを伝えたいけれど小心者の私にはそんなこと出来ない。手紙で精一杯なのだ。

小刻みに震える手を伸ばし、上履きの上に優しく乗せる。桃色の封筒が夕日に照らされ紅に染まっていた。


どくどくどく
今までの人生の中で、今にでも失神してしまいそうなぐらいに緊張したことはあっただろうか。
もうこの場から立ち去れば後戻りは出来ない。

中学生の時から使っている、くたくたになったスクールバッグを強く握り締め、私は逃げるようにしてその場から立ち去った。
こうなれば嫌でも明日には結果が分かる。

どうか、この思いが伝わりますように。
そう願いながら、私は震え縺れる足に鞭を振りながら家路を急いだ。

20120412