月の光に照らされ俺を見上げる名前の瞳は、今まで見たことないくらいに真っ直ぐやった。
涙の跡はまだ完全に消えてへんからまだ痛々しいけれど、それよりも名前の俺を見るその表情の方が気になり、俺は足を止めて名前と向き合う。

小さな背はさらに小さく見え、細い体はさらに細く見えた。
手を伸ばしたいと思ったけど、それを許すような雰囲気ではない。

すると名前は大きく深呼吸をしてから、ゆっくりと口を開いた。


「ずっと、言わなきゃいけないと思ってたんだけど、」
「…おん」
「あのね、私、手紙、光に入れる予定じゃ、なかったの、」


一つ一つ、単語を区切るように告げた言葉に、頭を殴られるような衝撃を受けた。
一瞬嘘かと思ったけど、唇を噛み震えながら言う名前の姿を見れば、その言葉が嘘やないことが明らかで。

何か言わなあかんと思っとるのに、自分の唇が震えて言葉が出てこん。


「、本当は別に好きな人がいて、間違えて入れちゃったの」


俯いてしまって名前の表情は見えん。
けれど細い肩が小さく震え、言い淀んどるから、名前としても言い出し難い話題だったはずや。
俺は何も言わず、名前の言葉を待つ。


「光に告白された時、違うって言わなくちゃって思ったの。けど、光の優しさが嬉しくて、ずっと、ずっと甘えてたの、」


ゆっくりと言葉を紡いでいく。
すると伏せていた顔を上げ、俺を見上げた。
やっと治まったはずの涙が、また大きな瞳に滲み始めとる。


「っ、でも、最初はそんな気持ちだったけど、好き、今は本当に好きなのっ、!」


大きな涙が頬を伝っていった。
涙に濡れた頬を拭ってあげる為に手を前に出せば、大きく体を揺らし一歩下がった。

俺は名前の手首を掴み、そのまま自分の腕の中に閉じ込めた。

20130515