屋上のドアが開いた音がして振りむけば、そこには額に汗を浮かべ、肩を上下に大きく揺らしている光がいた。
その姿が視界に入った時、悲しいような、嬉しいような、言葉に出来ない気持ちが込み上げてきた。

低い声で私の名前が呼ばれた時、酷く肌が粟立った。
あの整った唇にさっきの子の唇が触れたんだ。
そう思えば思うほど、心の中の黒いモヤモヤが増えていく。

ゆっくりと立ち上がって、光の元へと歩いて行く。
涙で視界も顔もぐちゃぐちゃで、今の私はきっと汚いだろう。

光の目の前まで行くと、小さく「ごめん」と聞こえた。
その言葉を聞いて、心臓が掴まれたように酷く痛んだ。
気付けば私は光に向かって暴言を吐いていて、ばんばんと胸を叩いているのにも関わらず、光は何故か少しだけ笑っていた。





光に手を引かれながら学校を出る。
下駄箱にはもうあの子がいなくて、心が落ち着いていく。

繋がれた手から伝わる体温に、高ぶっていた感情が穏やかになる。
あのキスシーンを見た時、はっきりと自分の気持ちが分かった。

失恋したら次の恋、なんて切り替えの早い人間ではないはずなのに、私は自然と光に惹かれていったのだ。

自分より高い位置にある綺麗な黒髪が風に揺れた。
歩いていた足を止めれば、光が振り返る。


「どうしたん?」
「…聞いて欲しいことがあるの」


吐きだすような声で言えば、光が息を呑む音が聞こえた。
そして私は唾を飲み込み、口を開く。

20130514