図書館で勉強していたら、いつの間にか周りがオレンジ色に染まっていた。
思った以上に集中していたようで慌てて本を片付ける。
バッグから携帯を取り出すと、新着メールを知らせるランプが光っていた。
確認すると[ちょっと用事出来たからちょっと遅れる]と光から届いてて、少し安心する。


「先生。遅くまでありがとうございました」
「そんなん気にせんで。その代わりまた来てな」
「はーい」


本の整理をしていた先生に声を掛け、図書館を出る。
光の部活を待つ間、図書館で時間をつぶすのが日課になっていた。
階段を踏み外さないように、でも足早に降りていく。

丁度、下駄箱まで来た時だった。女の子の声が聞こえてきた。
この時間だから部活帰りの子がいるのは不思議ではない。
むしろ良くあることだし、実際友人たちとも出会うことが多い。

けれど、聞こえてきた会話に思わず足を止めてしまう。
喋っている女の子の声は小さく、震えていた。


「うち、財前くんのこと好きやねん」


はっ、と息を呑む。
財前なんて珍しい苗字は学校に一人しかいない。
その人が誰を示すかなんて一目瞭然で、溢れる呼吸音を両手で隠す。


「無理。俺彼女おるし」
「苗字さんやろ?そんぐらい知っとる。でも、財前くんのこと好きやから、!」


女の子の言葉に胸がずきずきと痛み、言葉では言い表せれない感情が溢れてきた。
すると自然と足が動き、気付けば目の前に光と女の子がいた。
光は私を見ると優しく微笑んだ。


「名前も来たし帰るわ」
「っ、財前くん、!」
「自分、メンドイ」


光の口から零れた声は酷く冷めきっていた。
すると女の子が私を睨んできたかと思えば、光の制服の胸元をぐっと掴んだ。

そこからは、まるでスローモーションのようだった。
引っ張られたことにより、光の体勢が崩れ女の子の方へ落ちていく。
そして女の子がつま先立ちをし──


「っ、!」
「おまっ、!何すんねん!」
「どうせフラれるんやったら、思い出作りにこんぐらいのこと許してや」


制服の袖で自分の唇を拭う光。
そして私を見て艶やかに微笑む女の子。

一気にぼやける視界に、溢れる嗚咽。
気付けば二人を避けるように、来た道を走り戻る。

光が私の名前を叫ぶように呼んだ声が背中にぶつかる。
けれど今は、彼の声も姿も自分の中に入れたくない。

その一心で、私は屋上へと逃げ込んだ。

20130501