お風呂から上がって、冷えた水を一気に飲む。
ふぅ、と息を吐くと視線を感じているのに気付き、私はその元へと辿る。
そこにはソファーからこちらをジッと見ているお母さんがいた。


「名前、あんた最近可愛くなったね」
「え!?な、何言ってんの!?」
「あんた、彼氏出来たんでしょ」


ニタァと笑いながら私を見る。
ボボボと顔が熱くなっていくのが分かる。
それを見たお母さんは相変わらずニヤニヤしたままだ。


「大阪に引っ越してきた時は馴染めるか不安だったけど、お母さん安心したわ」
「…」
「ねぇ、彼氏どんな人?格好いい?」
「…かっこ、いい、」
「写メないの?」
「ないよ!」
「じゃあ今度連れて来てよ」


お願い、と言いながら両手を合わせ私を見てくる。
連れて来てと言われても財前くんだって部活で忙しいし。


「へぇ、財前くんって言うんだ」
「えぇ!?何で知ってるの!」
「思いっきり声に出してたけど」
「あぁぁ…」
「何部?」
「…テニス」
「四天宝寺のテニス部って人気あるんじゃないっけ?」
「なんでそんなに詳しいの?」
「んー、内緒」


お母さんはそう言ってまたニタリと笑った。
その時、玄関のドアが開いた音が聞こえお父さんの声が聞こえた。


「お父さん、お帰り」
「ただいま」
「ねぇねぇ、聞いてよ。名前ってば彼氏出来たんだって」
「ちょ、お母さん!」


ゴトン、床にぶつかって響く鈍い音。
音の主を辿ると、お父さんが鞄を床に落としわなわなと震えていた。


「…お前、まだ高校生だろ、彼氏とか、」
「あ、あのね、」
「しかも女の子に大人気のテニス部の男の子なんだって」


自分で言うのもアレだけど、お父さんは私の事をこれでもかという位に溺愛してくれている。
目を細めてお父さんを見ると、何とも言えない表情をして私を見ていた。


「…名前、今度その男を連れて来い」


私の肩をガシリと掴む。
血走っている目が怖くて、私は涙目になりながら必死に頷いた。

20130405