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あれからというものの、兄と共に梵天丸くんの家に行くことが多くなった。
家を出てから馬に乗る所までは記憶にあるのに、その次の瞬間には目の前に梵天丸くんのドアップがあるのだ。
兄の心地よい体温に、馬の揺れが眠気を誘うのだろう。

現に今だって、梵天丸くんが楽しげに私のなけなしの髪の毛を引っ張って喜んでいる。
痛い痛い!そう声に出していたら「こら、梵天丸」と、梵天丸くんのお母さんが止めに入ってくれた。ありがたい。


「しかし、本当に梵天丸は名前が好きなようね」
「将来的には名前も梵天丸様に御使え出来るよう、教育したいと思っています」


まぁ、何となくは分かっていたけれど片倉家は此処の家に仕えているらしい。
過去を遡って色々会話を思い出せば、片倉は武家で此処は結構凄い家みたいだ。
でもこの時代背景からして、武家でも大分良いとは思うけれど。


「あら、私は梵天丸に使えてもらう気はないですよ」
「え?」
「梵天丸と名前には、良い友人であって欲しいのです」


それか、もしくは…。
女性(兄が奥方様と呼んでいるから、私もそう呼ぼう)はそう言うと私の頬に触れた。
床に這い蹲りながら奥方様の顔を見れば、優しく微笑んでいた。


「あ゛ー!」
「きゃははは」
「梵天丸!」


頭の皮膚が引っ張られる感覚がしたかと思えば、それと同時に刺激的な痛みが襲った。
案の定、梵天丸くんが私の髪の毛(ほんっとに薄いからやめて!)を一握り引っ張っていた。
あまりの痛さに泣いてしまうと、兄がワタワタとしながら私を抱きかかえてあやし始めた。
呼吸は荒いけれど、すぐに涙は止まる。
何故かは分からないけれど凄く安心するのだ。


「梵天丸。名前ちゃんを手に入れるにはまずは、その兄を討ち取りなさい」
「あー」
「…奥方様」


奥方様は何とも恐ろしいことを言ってるけれど、私は今日も楽しい日を過ごしています。(頭は痛いけどね!)

満ち引く逢瀬
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