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夢を見た。
それがどんなのだったかなんて覚えてないけど、心がふわふわするような優しいものだった。

どうやらぐっすりと眠っていたようで、目を開けたら見たことも無いオジさんがドアップで私を見ていた。
驚いて声を上げたと同時に涙が溢れ出て、次の瞬間にはわんわんと泣き出してしまった。

しかし、この体になってから上手く感情がコントロール出来ない。
中身は成人を迎えているけれど、所詮今は赤ん坊なのだから仕方ないのかもしれないけれど。


「おぉ、これは驚かせてしまったようだな」
「申し訳ございません!」
「気にするな。やや子は泣いて成長するのだから」


私を抱きかかえて、優しくあやしてくれたのは姉でなく兄だった。
まだ不慣れな手つきで私を宥める。
それが可笑しくて笑えば兄は安心した表情を見せた。


「名は名前と云ったかな?」
「はい」
「将来は美しい女子になりそうではないか」


あっはっは!オジさんは高笑いをして、私の頭を優しく撫でた。
こんな赤ん坊を見て将来の容姿なんて分かるわけないじゃん。
なんて内心毒づきながら兄の腕の中で辺りを見回した。


しかし見慣れない場所だ。
片倉さんの家も大層綺麗だと思っていたが、ここはそれに負けていない。
そもそもここはやけに古臭い感じがするが西暦何年なのだろう。
電気も通ってないし、ご飯も(こんな事を言ったらいけないかもしれないが)粗末なのだ。

恐らく、前世の私がいた時代よりも前なのだということは明らかだけれど。
服もまだ和服中心みたいだからまだ開国も始まってないのだろう。
異国の文化がないのだ。

生まれ変わるって未来じゃなくて過去に行くこともあるのか。
生まれ変わって初めて知った。

すると「失礼致します」と女の人の声が聞こえたかと思ったら次に障子が開く音がした。
残念ながらそこに誰がいるのかは見えなかったけれど、ズルズルと布が畳に擦る音がするから女の人は確定だ。


「お久しぶりでございます、奥方様」
「顔を上げて下さい、小十郎」
「はっ」


女の人はオジさんの隣に座ったのは分かったが、こう、もうちょっと角度をずらしてもらわないと顔までは見えない。
あーあー、と声を上げてアピールをすると「その子が妹さんね」と女性の声が聞こえた。


「はい。名前と申します」
「いい名前だわ。梵天丸と同時期に生まれたのも何かの縁。是非、心を通わせる仲になって欲しいものです」


どうやらこのオジさんと女性の子どもと同じ時期に生まれたらしい。
梵天丸。なんだか古風溢れる名前だ。

すると兄が私を抱えたまま少し移動した。
目の前には見るからに上品で、綺麗な着物を着た綺麗な女性に、その腕に抱えられた小さな赤ん坊。この子が梵天丸くんか。

ジッと見ていたらくりっくりの目とバッチリ視線が合う。あら、可愛い。
桃色に染まったプニプニの頬っぺたに触ってやろうと思って手を伸ばしたら、梵天丸くんも手を伸ばして、私の手を掴んだ。…手もプニプニだから許してやろう。


「あら。さっそく仲良しさんね」
「もしかしから、もう恋仲になったかもしれぬぞ」
「こんなやや子の内からそんな関係になったら、さすがに悲しいです」


兄のそんな言葉にオジさんと女性は楽しげに笑った。
私はただ、目の前で私をジッと見ている梵天丸くんに視線を合わせていた。

不安症とのんき心
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