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さっきは久しぶりの再会が嬉しくて気持ちが弾んでいたけれど、今は恥ずかしくて仕方ない。
正座し重なった指をモジモジさせていると梵天丸くん──いや、政宗くんが口角を上げて見てくる。
そして、またその視線が恥ずかしくて目線すら上げれない。
「名前、お前の顔を俺によく見せてくれ」
「、政宗くん」
会わなかった数年で何が起きたか知らないけれど、この年にしてはやけに色気が多い。
しかもどこで覚えたのか女の扱いも上手いのだ。
私の顎に指を当て、無理矢理顔を上げらされる。
鋭い視線と交り合い、段々と顔に熱が篭っていく。
「顔真っ赤だぞ」
「そ、それは政宗くんが、」
「俺が?」
余裕そうに私を見る政宗くんに対して、私は言葉が出なかった。
この時代、結婚するのだって早いから女性経験があってもおかしくないかもしれない。
しかも伊達家の政宗くんなのだ。
知識のない私にだって彼が未来に語り継がれる人だって知ってる。
そんな凄い人なのだから、一人や二人女の影があるのは自然なことなのだ。
「なぁ、これからはずっとここにいるんだろ?」
「うん」
「良かった」
安心したかのように言うと、今度は私を優しく抱きしめてくれた。
低くなった声も、少し筋肉質な体も、私の記憶の中にある彼とは全く違う。
私の知らない所で彼は少しずつ大人になっていったのだ。
「明日は一緒に城下街に行こう」
「え?」
「戻ってきてくれたお礼に簪を買いたいんだ」
政宗くんはそう言うと、簪で彩られた髪の毛に触れた。
その表情はまるで愛しいものを見るように、熱が篭っていた。
政宗くんは根本的な事を忘れている。
私は女中になるために一人、出ていったのだ。
曖昧な答えしか出来ず、精一杯の笑顔を見せた。
逃げないでよ、決心
20130422