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久しぶりに乗った馬はやっぱり苦手だ。
相変わらず私は兄に後ろから抱かれるように乗っていた。
私だってあの頃みたいな子どもではないのだから大丈夫だと言ったのに、心配だと言いこの状態だ。

けれど、あの頃とは違い大きくなった体では見る風景が全然違った。
自分に余裕が出来たからという事もあるのだろう。
川のせせらぎ、小鳥の囀り、木々の音…。

なんて和やかなのだろう。
すると自然と眠気が襲って来て、思わず船を漕ぐ。
すると兄の腕が私の腰に回り「やっぱりお前は昔から変わってない」と言い、大きなため息をついた。

あれからどれ程の時間が経ったか分からないが、兄に起こされ目を覚ませば、目の前に大きなお屋敷。
幼い頃、何度も何度も通ったあの場所だ。どくん、胸が高まる。

兄に手を引かれ、ゆっくりと馬から降りた時だった。
「名前!」と大きな声で名前を呼ばれたかと思えば、そのまま体に衝撃が走る。
気付けば私は誰かに抱きつかれている状態だった。

聞いたことのない声。
それなのに、私は何故かその声の持ち主を知っているのだ。


「…梵天丸くん?」
「っ、お帰り…名前っ…!」


涙を抑えるような声で私の名を呼ぶ。
ゆっくりと顔を上げ、目線を上へ上へとずらしていけば、そこには端正な顔出ちをした少年。
右目に付けられた眼帯には酷く見覚えがあった。


「名前、すっげぇ可愛くなったな」
「梵天丸くんこそ、」


私の言葉は、溢れ出てくる涙によって遮られてしまった。
以前は私より少し小さいぐらいだった背丈が、今では頭一個分は違う。
あの頃のようなぷにぷにした体じゃなくて、少し筋肉質になったようだ。


「ぼんて、ぼんてまる、くっ…!」
「俺に会えて嬉しいのは分かるが泣きすぎだ」


骨ばった掌が優しく私の頭に触れた。
そのせいで私はまた一層泣いてしまい、梵天丸くんと兄にケラケラと笑われてしまったのだ。


その背中ずっと見つめて

20130316
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