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何事もない、穏やかな日々が過ぎて行く。
これが普通の事なんだけど、今までがいろんなことがありすぎたせいで何だか不思議な気持ちだ。

朝起きたら梵天丸くんが私の布団の中にいて、そのまま一緒に二度寝。
それで姉の呼びかけで起床。そしてお昼は山を駆けまわる。
夜は一緒にお風呂に入って、そのまま一緒に寝る。

そんな何気ない日々を過ごしていたけれど、とうとう私はこの城から出る日が来てしまった。
あくまでも今、私がここにいるのは梵天丸くんの心のケアなのだ。
それがもう問題なくなれば、私は伊達家に仕える一人前の女中になる為に、あの城へ戻らなければならない。

それを梵天丸くんに伝えると、何か言いたそうだったけれど「…分かった」そう一言だけ言い、私の手をぎゅっと握った。


「もし、いやなことがあったら、すぐにかえってきていいよ」
「うん」
「つらいことがあったら、ぼくとあそんだことをおもいだして」
「うん」


私の手を握る梵天丸くんの手は、小刻みに震えていた。
大きな瞳からは、今にでも涙が零れ落ちそうである。


「ぼくっ…ぼく、ずっとまってるから!名前がかえってくるの、ずっと、ずっとまってるから!」


そう言った時、梵天丸くんの瞳から涙が溢れた。
私はただ返事をして、梵天丸くんを見つめる。
言いたいことはたくさんある。伝えたいことはたくさんある。
けれど今、それを言ってしまったら全てが無駄になってしまう気がするのだ。


「いってらっしゃい、名前!」


ぼたぼたと大粒の涙を零しながら、笑顔で言う。
きっと私も今、梵天丸くんと同じ顔をしていることだろう。


「いってきます、梵天丸くん」

朝が眩しくなるまでに


20130211 幼少期編終了
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