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梵天丸くんが寝込んでから数日後、あれから直ぐにお医者さんも来てくれて、薬を処方してくれ、それが効いたらしく梵天丸くんは元気になった。
その姿を見たらほっとして涙を流したら、梵天丸くんは悪戯っ子のように笑いながら私の髪の毛をくしゃくしゃになるまで撫でた。


「ぼくは名前といっしょに、てんかをとういつするまでは、しねないからね!」
「わたしもいっしょなの?」
「だって名前はぼくの、せいしつになるんだよ?あたりまえじゃん!」


そう言うと乱れた私の髪の毛を整えるように指で優しく撫でた。
自分でやったのに、なんて思いながらも私は目の前一面に広がる花畑を見つめる。

そんなに古い記憶ではない、ここで私は梵天丸くんに怒鳴られたのだ。
もしかしたら、もう一緒にいれることが出来なくなるのではないかと思った日もあった。

けれど、今、こうして隣同士で座り以前と同じようにいれる。
たったそれだけのことが、こんなにも幸せに感じると思う日が来るだなんて思ってなかった。

遠い過去に「ありふれた日常こそが一番の幸福」だなんて聞いたことがあったけれど、まさに今、私はそれを感じているのだろう。


「名前はこんや、かえるの?」
「うん。つきがのぼるころには、もうかえってるよ」


そう言って見上げた空には大きな夕日がてっぺんまで昇りかけていた。
あくまでも今の私は大名の家に仕える女中なのだ。
どういう理由があっても、私が帰る場所はあのお城なのである。


「…こないだはおこってごめんね」
「ううん」
「ぼく、名前がりっぱになってかえってくるまで、まってるから」


梵天丸くんはそう言うと、私の手をぎゅっと強く握った。
昇っていく橙色の光が私たち二人を滲ませていく。


「ぼくもだれよりもりっぱになる。名前がもどってくるころにはおどろくぐらいに、おとこまえになってるから」
「じゃあ、わたしはそこらじゅうのだんせいが、ほれぼれしちゃうぐらいにかわいくなってるかも」
「そうだとしても、名前はぼくのだもん!」


ほっぺたをぷくりと膨らませて私を見る梵天丸くんはまだまだ子どもだ。
そう、子どもなのだ。
きっと私が戻ってくるのは何年も先なのだから、梵天丸くんも大人になり良い人に出会って、私の事なんて忘れているのだろう。
そう思うと寂しいけれど、それが現実なのだ。

今だけは、この手を放したくない。そう思った。

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