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小さくなっていく梵天丸くんの背中を見つめる。本当は追い掛けたい。なのに足が棒になってしまったように動いてくれない。
こんなことになる予定じゃなかった。「頑張ってね」梵天丸くんならそう言ってくれると思ってた。
ぎゅう、胸が締め付けられる。苦しくて悲しくて辛くて堪らない。

口の中が鉄の味で充満した。気づかない内に唇を強く噛んでいたようだ、じわりじわり、口の中の不快さが増していく度に目の前が滲んでいく。
ぐらりと体が揺れ、ぺたりと地面に座り込む。立っている気力すら無い。


「っ、ばか」


それは私に対してか、梵天丸くんに対してか。そんなことを考える余裕すら失ってしまっているようだ。
滝のように流れ落ちてくる涙を袖で拭う。でも涙は止まるところか量が増えていくばかり。お気に入りの空色の着物の色が増していく。

その時、がさりと草が擦れる音が響いた。
梵天丸くんかと思い振り返れば、そこには言葉では言い表せれないような表情をした兄がいた。
静かに、ゆっくりと私の元へと近づいてくる。


「、すまない」


兄はそう言うと私を強く強く抱きしめた。
今では慣れてしまったはずの心地よい体温、鼓動。
いつもならそれに安心するはずなのに、今日は何故こんなにも憎く感じるのだろう。
誰にもぶつけることの出来ない感情が心の中でヒトリ、ぐるぐると回り続ける。

私は小さく深呼吸した後、兄の胸を押しその腕の中から逃げだす。
「、名前」兄が小さく私の名前を呼んだ。


「にいさま、かえろう」
「だが、」
「かえろう」


嗚呼、止まりかけていた涙がまた溢れ出てきそうだ。
俯いて必死に堪えている私の頭に大きな掌が優しく舞い降りた。
顔を上げれば普段は攣り上がっているはずの眉を下げ、悲哀にも似た表情を浮かべる兄がいた。

割れたガラスの靴
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