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くるり、鏡の前で一回転。くるり、鏡の前でもう一回転。
その度に髪の毛を飾った簪がふわりと揺れる。
それが可愛くてまた回る。

するとそれを見ていた兄が溜息を付き、手をパタパタさせ私を呼ぶ。
鏡の前から離れて兄の膝の上に座れば、大きな掌が私の頬に触れてから頭の上でゆらゆら揺れる簪に触れた。


「そんなに気に入ったか?」
「うん!だってにいたまが"名前ににあう"って、えらんでくれたものだもの!」


自分よりも随分と上にある顔を見ながら言えば、兄はハニ噛んだように笑い、頭を優しく撫でた。

今、頭の上で揺れている簪は先日、兄と共に町へ行った時に買ってもらったものだ。
流石と言うべきか店には数え切れないぐらいの簪が有り、目が回りそうだった時、兄が選んでくれたのがこれだった。
青を基調とし、小花が散った可愛らしい物で一目惚れも同然だった。

そしてその日、新しい着物を仕立ててもらった。それも青を基調とし、花やら鳥(種類は分からない)やらが描かれた華やかな物である。
着物の柄は前々から決めてあったようで、兄が選んでくれた、そして私が好きな色を覚えていてくれたのがとても嬉しかった。


「厠は行ったか?大丈夫か?」
「いった!だいじょうぶ!」
「馬の上で寝てもいいが、今日は涎を垂らすなよ」
「…きをつける」


ここでビッグニュース。なんと先日、梵天丸くんの弟が生まれたらしい。
出産してから日にちも経って奥方様も落ち着いたようだから、今日これから会いに行くのだ。
だからたぶん、おねだりした時簪を買ってもらえて、着物も新しいのを作ってもらってたんだと思う。

今だに履き慣れない下駄をカランコロンと鳴らしながら家の裏側にいる馬小屋に向かう。
背が低くてまだ自分一人では乗れないから、抱っこをしてもらって乗せてもらう。


「苦しくないか?」
「だいじょうぶ」


私は兄の前に座り、互いのお腹を太めの紐で優しく結ぶ。
以前、抱き着いたまま乗った時落ちかけた事があり、こうした対策を取ったのだ。

馬が走れば強い風が全身にぶつかる。目が痛くてぎゅっとつむれば「大丈夫か?」と優しい声が聞こえてきた。


「だいじょうぶ!」
「…涙目だぞ。ゆっくり行くか」
「や!はやく、ぼんてんまるくんのおとうとにあいたい!」


すると兄は目を丸くさせたかと思うとニヤリと笑い、ペチン!と強く手綱を叩いた。


「ひっ」
「目、つむっとけよ」


ビュンビュンと風が切る音が耳元で直に聞こえる。景色が一瞬で移り変わる。
早く会いたいなんて言った数秒前の自分を殴ってやりたいと切実に思った。

思考のタイムラグ
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