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「ぼんてまゆくん、きょうはなにちてあそぶの?」
「きょうは、しゃくらをみにいこう」


年月の移り変わりとは非常に早く、気づけばたどたどしいながらもはっきりと言葉を離せるようになっていた。
そのお陰で人として意思疎通が出来、自分の意見もはっきりと言えるから非常に助かる。

着物の長い袖から手を出して梵天丸くんと手を繋ぐ。
子どもの手はプニプニしてて気持ちいい。強いて、自分もそうなのだけれど。


「こじゅうろう、はやく」
「にいたま、はやく」


残念ながらまだ難しい音もあり、上手く発することが出来ないことが屈辱だ。
それもまた舌が発達してくれば治るであろう。
今は今を存分に楽しまなければならない。

今日は姉が街へと行っているので代わりに兄が私達の世話をしている。
梵天丸くんと出会った瞬間騒ぎ遊び泣き叫びだったから兄の表情が既にやつれているような気がするけれど、気にしないようにしておこう。


「それでは準備をして参りますので少々お待ち下さい」
「あい!」


綺麗な障子を開けて兄は部屋から出て行った。
恐らく(というか絶対)天上に忍びがいるだろうけど、実質この部屋には私達二人だ
。何か悪戯してやろうと思い考えていたら「名前」名前を呼ばれた。


「ん?なあに?」
「ぼく、おおきくなったら名前をせいしちゅにする」
「え?」


若干三歳程度でプロポーズなんてされるなんて思ってもみなかった。
気持ちは大変ありがたいのだが、梵天丸くんは殿様になる人で私はその配下の武士の娘だ。

この時代、自分の家系の勢力を高めるためにどっかのお偉いさんの娘をもらうのが当たり前であろう。
私のような人間が彼の妻になるなど到底無理であろう。

だからと言ってここで断ったら幼い心を傷つけてしまいかもしれない。
そう思えば答えは一つしか出てこない。

梵天丸くんの小さな手を握りなおして、少しだけ小さい彼に目線を合わせる。


「うん!」


大きくなったときには忘れているはずのこの気持ち。
ならば今だけは、少しだけ甘えてみようと思う。

ゆめゆめ忘れませぬやうに
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テーマ「人外ファンタジー」
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