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立ち上がっては倒れ、一歩歩いては畳へと落ちていく。
今まで"歩く"という行為を何気無しに、無意識でやってきたけれどまさかこんなにも難しいことだなんて思ってなかった。

ふぅ、と小さくため息をついて、こてん、と畳へと倒れる。
足は痛いし、ダルイしで最悪だ。
ハイハイするのもめんどくさいから「あー」なんて甘えた声を出す。
すると机に向かって何かを書いていた兄の視線が私へと向いた。


「うーうー」
「どうした?眠いのか?」


筆を置いてから兄は私の元へとやって来て抱き上げてくれた。
あぁ、やっぱりこのちょっと筋肉質な腕と温かい体温が気持ちいい。
すると自然と瞼が重くなっていき、「おやすみ」兄のそんな声を最後に私は夢の世界へと旅立った。


目を開ければ部屋は真っ暗だった。
どうやら寝すぎたようだ。手を伸ばして兄を探したけれど見つからない。
声を出したけれど、返事がない。

──怖い

そう思ったら涙が溢れてきて、喉が潰れるぐらいの声が出た。
怖い怖い怖い怖い。
此処に来て、初めて恐怖を感じた。暗闇は怖い。一人は怖い。


「名前!?」


障子が開いた音と同時に兄の慌てたような声が聞こえた。
兄は慌てたように私の元へと駆け寄り強く強く抱きしめ、「一人にしてごめんな」小さく呟いた。

怖いものしか無かった
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テーマ「人外ファンタジー」
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