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「という訳なの、名前。ごめんね」
「あー」
「、本当に貴女は賢いわね」


姉はそう言って私の頭を撫ぜた。
明日から姉は梵天丸くんの乳母として働くから此処を出て行くらしい。
寂しいけれど、お偉いさんに頼まれたら断ることも出来ないだろう。

別に戦場に出るわけでもないし、乳母だったら粗末な扱いは受けない筈だ。
姉は出来る人だ。正に適任である。


「小十郎、名前を宜しくね」
「はい」
「名前も小十郎と仲良くね」


その時、私の顔にポタリと冷たいものが落ちてきた。
それは姉の瞳から一つ二つ、ポツリポツリと私の元へとやって来ていた。


「姉上、泣いておられるのですか?」
「、実はね、ちょっと寂しいの」
「姉上、」


そりゃあそうだろう。
どんなに知り合いの所に行くと行ったって、家族の元から離れるというのはそういうことだ。

じゃあ、前世の私が死んだ時、両親も兄弟も悲しかったのだろうか。寂しかったのだろうか。
いや、あの兄弟なら、ざまぁ、ぐらい思ってそうだ。


「よし!今日の夕餉は腕を振るいましょう!」
「野菜を使い切らないで下さいね」
「分かってます」


すると姉は私を兄へと渡し、「さっそく準備してきます」と言って部屋を去っていってしまった。
今はもう慣れてしまった兄の腕の中は何故だか眠気が襲ってくる。


「眠たいなら寝ればいい」


その声と同時に私はゆっくりと目を瞑った。
その時、鼻を啜るような音がした気がしたけれど、半分夢の世界に足を突っ込んでいる私には確認する事が出来なかった。

明日には消えて無くなる涙
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